3.各界に厳しい反応

26日、大阪府から正式発表があった。関西電力大阪ガスど他の株主も全株式を売却することが明らかにされた。民間保有分も合わせた売却額は781億円で、このうち府の保有分は49%(約383億円)になる。関西電力と大阪ガスはそれぞれ200億、濡れ手に粟のボロ儲けとなる。

売却益は、府東部を走る大阪モノレールの東大阪市域への延伸や、府北部の北大阪急行の延伸などに使われるとされた。

28日、身売り話が明らかになると、橋下市長は意気揚々と記者会見した。泉北高速鉄道の売却は、株式売却で投じたお金を回収し、再投資に回せる。いわゆる「錬金術」だ。全国の行政資産を持つ自治体に手本にしてもらいたい。

この錬金術には誰もが疑念を抱いたようだ。

12月6日の報道では、「5年後にわれわれが高値で買わされるのでは」との疑念が南海電鉄関係者から上がっているとされた。

同じ記事で、金融関係者は「ファンドは投資家に利益を分配しなければならず、できるだけ早く投資を回収したいはず」と指摘。5年が経過すればすぐにでも売却するとみている。

その際、さまざまな条件から見て、南海以外に買い手はないとみられ、「高値で買わざるを得なくなる」との懸念がくすぶる。

3日には、関西経済同友会の鳥井信吾代表幹事(サントリー)が、「鉄道事業は多大な安全投資が必要。米国の会社がいきなり来て、事業をしてしまうことに心配がある」と憂慮の声を上げた。

4.入札の真相が明らかに

そこへ持ってきて、指名に敗れた南海電鉄の入札条件が明らかになったから、蜂の巣をつついた状態となる。

ローンスターと南海電鉄の購入条件を比べてみると、まず購入価格だが、ローンスターは781億円、南海電鉄は720億円で入札した。差額60億円は府にとってはバカにならない数字だ。

しかし運賃は普通乗車券の乗り継ぎでローンスターが10円値下げを提案したのに対し、南海は80円値下げを提案した。通学定期でもローンスターの割引が12.5%なのに対し南海は25%を提案している。

松井知事は、株式売却は高い運賃の値下げのためとしていた。

ある試算では、利用者にとっては、南海なら運賃値下げなどで年間約5.5億円の恩恵を受ける。一方、南海でなくローンスターを選んだことで府が得る差額利益は30億円。5年ちょっとでちょんちょんだ。

府民にとってどちらが有利なのかは明らかだ。逆に言えば、府は府民が享受すべき利益を掠め取り、自分の懐に入れるということになる。

堺市議会は「住民の利便性をないがしろにした選定」だと激昂、売却先を「白紙に戻す」よう求める決議を可決した。

和泉市議会でも大幅値下げなどを求める決議が採択された。決議文では、「ローンスターへの売却は、鉄道事業の安定的な経営や安全輸送に危惧がある」 と指摘。「大幅な運賃値下げなどについて、交渉相手の再検討も視野にローンスターと交渉」し、沿線住民の要望に応えるよう求める。

一部では「値下げをしないのはけしからん」と住民が騒いでいるように報道されているが正確ではない。市民は府の理不尽さに怒っているのだ。ただ「運動」としては立法手続きへの異議は困難で、値下げをもとめる要請という形をとらざるをえない。

16日には3000人を超える署名が府議会に提出された。

府議会の議論でも、公共交通機関を外資系ファンドにまかせて、将来も安定的に事業が継続されるのかとの意見があげられるようになった。

11日、堺市の竹山市長は「府議会の議決が最後の大きなカギを握っている。沿線住民らの思いをくみ取って慎重に審議し、賢明な判断をお願いしたい」と述べた。

いっぽうで堺市議会が決議したローンスター選定の「白紙撤回」については、府に損害賠償が発生するとの理由で慎重な姿勢を示した。

13日午後、大阪府庁で松井知事と竹山市長の会談が行われた。

竹山市長は「泉北高速を育み、発展させたのは沿線住民。売却益の一部は地元に活用してほしい」と訴え、そのために財政支援が必要なら府が支援すべきだと主張した。

これに対し松井知事は「売却で値下げは実現する。府民の財産の価値を上げることが知事の責務だ」とこれまでの主張を繰り返した。そして「さらなる値下げは堺市の負担で実現してほしい」と述べ、値下げに関する府の支援を拒否した。

松井知事の「値下げ実現」は虚しく響いた。なぜならその前日、泉北高速鉄道が来年4月の消費増税を受けて運賃10円値上げを発表したからだ。これで値引き分はチャラだ。

野党からは、両市の財政負担はローンスターへの一種の支援ではないか。もし支援すれば、南海電鉄との差額を補填する結果となり、入札の公平性を損なうのではないかと批判された。

(そういう難しいことを言わなくても、金の出所が市であり、入り所が府なんだから、府が市から巻きあげるという図式は明白だ)