大友涼介さんのページにJapan Business Press に掲載された下記の記事が転載されている。要約して紹介する。原文はNYタイムズに掲載されたものらしい。

ジョセフ・スティグリッツ

「アベノミクスは正しい方向に進んでいる~日本こそがモデルだ~」

■短期的な株価の上下で判断してはならない

 1989年の破綻にはじま る20年に及ぶ日本の成長停滞は、金融危機の悪い例を示す典型的な教訓となった。

 しかし今、日本は金融緩和、公共投資、外国からの投資の振興という短期集中コース に着手した。アベノミクスは疑いなく、正しい方向への巨大な一歩である。

■極端な不平等が生まれなかった日本

 日本の不景気に関する一般的な理解を再検討する必要がある。確かに、表面的には、成長は停滞していたように見える。

 しかし日本の生産労働人口の減少を勘案する必要がある。生産人口一人当たりの実際の経済生産は、今世紀初頭の10年 間、米国やドイツ、英国、オーストラリアよりも高率で成長していたのである。

OECDによれば、日本のジニ係数は約0・33となっている。課税および移転支出(社会保障給付など)前のジニ係数は、0・488とアメリカと変わらない。これは日本政府が不平等の調整を積極的に行っていることを示す。

■日本の低い失業率こそ、成功の証

  もちろん、日本の状況が完全なわけではない。OECDは日本の後期高齢者の25・4%が相対的貧困にあると推定している。(相対的貧困: その国の中位所得の半分以下で生活する人の割合)

これはOECD平均の16・1%をはるかに上回る。これほど多くの高齢者が困窮に直面しているとは、まったくもって良心に反する話だ。

しかし、沈滞の20年間でも失業率が5・8%を超えることはなかった。この低い失業率が、日本が 米国よりずっとうまくやっている理由の一つである。

■アメリカの中間層以下を苦しめる4つの問題

まず、職を失う人々が苦しむ。第2にパートタイム労働を甘受している膨大な数のアメリカ人が苦しんでいる。

第3に賃金はインフレに連動していない。多くのアメリカの中間層家庭で実質所得が減っている。最後に、あらゆる種類の公共支出が削減されている。

 昨年12月に首相の座に着いた安倍氏は、構造、金融、財政政策という3面 からのアプローチにより、米国がとうの昔にやっておくべきだったことをやってのけ た。

■研究や教育への投資は放っていては生まれない

 改革は、日本が大規模な構造転換をする必要がある という事実に対応している。

それは製造業経済からサービス産業経済への移行であり、グローバルな比較優位性における大きな変化、人口の高齢化問題への適応である。

研究や高等教育へ投資し、若い日本人がグローバリゼーションで成功するスキルと考え方をしっかり身につける必要がある。

日本は世界に誇示したイノベーション能力を他部門にも展開する潜在力をもっている。

これらの構造変化は放っておいても市場から生み出されるわけではない。だから、こうした状況下で政府支出を削減するのはきわめて愚かなことだ。

■緊縮財政論者は間違っている

アベノミクスの2本目の柱である財政刺激が非常に重要である

総需要を増加させるためには刺激が必要である。それは、構造変化を完遂するためにも必要なのだ

米国では、「財政赤字の縮小こそ最大の課題」とする強硬派が力強い行動を阻んでいる。

評論家たちは「日本はGDPの2倍もの債務を負っている。これ以上の財政負担を伴う新政策を実践してゆく立場にはない」と言い立てる。

彼らは、日本の債務が長期低成長と同時進行している事実も指摘する。しかし低成長の原因は負債ではなく、低成長が財政赤字の原因なのだ。

緊縮財政論者は、大規模な借金による支出が世界中で成長を鈍化させているという。しかし事実は逆だ。ヨーロッパは、財政緊縮が不景気と大不況をもたらすという証拠を、これでもかというほど提供している。

アベノミクスの最後の側面は金融政策で、それは財政刺激策を金融刺激で強化するものだ。

焦点は、デフレーションの逆転にある。量的緩和のように強力で前例のないものであっても、金融刺激は、せいぜい限られた効果しかない。

私の考えでは、これがアベノミクスの主な関心事項だ。為替レートの円安化は日本商品の競争力を強め、その結果、経済成長が刺激される。

連邦準備制度の“量的緩和”がドル安を招いているのも同様に事実である。この分野において、グローバルな協調が期待される。

■米国は「アベノミクス」に習うことができるか

喫緊の課題は、アベノミクスが良い計画か否かということではない。

米国が同様の計画を実現できるか、それをやり損なった結果はどうなるか、ということである。

障害は経済科学ではなく、毎度のことだが、米国の途方もない政治抗争なのだ。

あらゆる分野において公的支出が減るに任せてきた。その結果、ほとんどすべ ての州と市町村レベルで雇用が減少している。その重荷は、米国の最も弱い者の上に大きくのしかかっている。

私の研究の中心的テーマは、いかなる国家にとっても不平等の対価 は高いということだ。

社会は高成長と平等を両立させることが可能で、どちらか一方しか実現できないということはない。

アベノミクスは、すでに両者の実現を狙ったいくつかの政策を提示した。安倍氏の計画は、金融政策の限度を理解したうえで、金融、財政、構造政策の連動が必要とされている。

日本のこの10年の成果を全くの失敗と見る人々は、経済的成功というものを 非常に狭くとらえている。より大きな所得の平等、より長い平均余命、より少ない失業、子供の教育と健康へのより大きな投資、労働力人口に照らしてみた場合のより高い生産性などを含め、多くの面において日本は米国よりうまくやってきた。

日本がわれわれに教えることは、非常に多い。もしアベノミクスが、その支持者たちが望む半分でも達成できたなら、われわれは、日本からさらに多くを学べるだろう。