マネー(通貨)という言葉の意味がわからない。これがわからないままでいると、先に行ってから話が見えなくなる。

おまけに一方この世界に飛び込むとカタカナ(英語)が飛び交うが、このカタカナも訳がわからない。ふつう日本語でわからないことでも英語で言われると「何だ、そういうことか」ということになるが、この世界では実感とかけ離れている。

「通貨」について勉強した。以下はその感想。

1.通貨(マネー)といってもいささか広うござんす

通貨というと、我々素人はお札(日銀券)と硬貨のことだと思う。これは現金通貨という。

しかし日銀統計では、これは通貨の一部にすぎない。通貨(マネー)には預金もふくまれるのである。預金というのにも二つあって、ひとつは一般人が市中銀行にあずけてある預金、もう一つが市中銀行が日銀に当座預金として預けているお金である。

つまり預金通帳は、それ自体がマネーなのだ。これに年金の積立金などが加わって通貨供給量(マネーサプライ)ということになる。

ずいぶん勝手な言い方だが、上のほうでそう決めたんだからしかたがない。ひょっとすると欧米の人のマネー観というのはそうなのかもしれない。

ということで、まず足元から固めていきたい。預金通帳まで、通貨(マネー)だと言うんなら、お札と硬貨、俗にいうキャッシュ、あるいはゲンナマのことはなんて言うのだろう。

2.現金通貨とハイパワードマネー

通貨に関する用語は日銀(中央銀行)が創りだしたものが多い。わかりにくい言葉は日銀の立場に立つと見えてくることがある。

日銀には3つの仕事がある。一つはお金(現金通貨)を作る仕事だ。これは分かりやすい。二つ目は市中銀行との貸し借りだ。このために市中銀行は日銀に当座預金の口座を開設し、何らかの預金をする。

三つ目が金融資産の売り買いだ。日銀券は最優秀の金融資産だからこれで劣後債を買い取ることで、市中に金が出まわるようになる。これが買いオペで、現在の異次元の金融緩和はもっぱらこの方法で行われている。

金は日銀内に市中銀行が持つ当座預金口座に振り込まれるから、そこには刷り上がったお札か、帳簿上の数字かは別として、金が積み上がっていく。

だから日銀の眼から見ると、お金(現金通貨)というのは、市中を流通する現金通貨、今年新たに刷り増ししたお札、当座預金の口座に積み上がったお札の三種からなるわけだ。

これらはいずれも本当のカネ(日銀券)であるから、強力通貨、高権貨幣などと呼ばれる。しかし実際にこれらの名で呼ばれることはほとんど無く、英語でハイパワード・マネーと呼ばれる。

このなかで、発行された日銀券や市中を流通するお金は実物だが、日銀の当座預金は、拝むことはできないし、本当にあるのかどうかもわからない。変な話だが「ヴァーチャルな現金」である。

したがって正確な意味で現金通貨とはいえないのだが、日銀にしてみれば帳簿上は立派な現金である。いざとなりゃぁ刷ればいいだけの話である。

3.ハイパワード・マネーとベース・マネー

ハイパワード・マネーという言葉には、マネーを生み出し駆動するマネーというニュアンスがある。これは金融主導(マネタリズム)的な価値観がふくまれているからだと思う。

日銀はこれを、ハイパワード・マネーと呼ばずに、ベース・マネーと呼ぶ。何のベースかというと通貨を中心とした金融全体のベースということだ。

たしかに正しいけど、それは考え方が正しいのであって、「カネはカネじゃんか」と思う。

ガチガチの通貨と言わずに「主食の通貨」と言っているみたいなもので、「日銀が偉いんだぞ」という素振りが感じられてしまう。

4.ベース・マネーとマネタリー・ベース

最近はベース・マネーと呼ぶことすらやめて、マネタリー・ベースと呼ぶようになっている。これは日銀が悪いのではなく、世界的にそういう言い方になっているのでしょうがないが。

中身はハイパワード・マネーと全く同じである。これはひどい造語だと思う。「みかんをビタミンCと呼ぶ」ようなものである。サプライサイド・エコノミーの匂いがプンプンする

さすがに「現金通貨+日銀預り金」では通りが悪いので、いささかの抵抗を持ちつつもハイパワード・マネーと読んでおきたい。

5.「非現金」通貨と「通貨もどき」

これが一番飲み込みづらい概念で、端的に言えば預金のことである。預金は現金(キャッシュ)ではないが通貨(マネー)なのである。そういう風に決められているんだからしかたがない。

最近はたしかにクレジットカードで支払いを済ませることも多い。これは預金通帳を現金の代用にしていることになる。私の預けたキャッシュはとうの昔に運用されてしまっているのだが、普通預金には「随時引き出し権」があるから現金と同じように利用できるのである。

このように、「非現金」通貨というのは、“端的に言えば”預金のことであるが、実はそれほど単純ではない。「預金」の枠がかなり広がっているからである。

海外旅行で使うトラベラーズチェック、バスや地下鉄に乗るときのプリペイドカードも仕掛けは同じだ。

我々素人からすれば、これらは「通貨もどき」なのだが、日銀の統計では立派な通貨の扱いを受けている。

6.二種類の「通貨もどき」

ところが、この「通貨もどき」に対するきっちりした名称がない。随時引き出し権があればほとんど問題がないが、それがなければ額面通りにはならない。

随時引き出し権があるのは、当座と普通口座だ。これを従来の日銀統計では「預金」(通貨もどき)としてきた。これが、M1と呼ばれるカテゴリーである。

定期預金は契約日時までには現金化できないから通貨もどきとは成り得ない。もし解約すれば解約料という名の割引をされてしまう。

しかし、日銀の新基準(M3)では定期預金も「準通貨」という括りで通貨の扱いを受けることになった。随時引き出し権ではなく譲渡性があるかどうかが判断の基準になったようだ。

買える地域とか、買える中身に制限があれば、これも「通貨もどき」とはいえない。何十枚とたまった電話カードやビールの引換券が良い例だ。むかしは商店街のチケットというのもあったよね。そうなると金券ショップのお出ましとなる。

このへんは今のところ通貨や「準通貨」にカウントされる可能性は低い。しかし日銀はM3よりさらに広範囲の「広義流動性」というカテゴリーを考えているようで、そこには

金銭の信託+投資信託+金融債+銀行発行普通社債+金融機関発行CP+国債+外債

がふくまれていくるから、まさに一網打尽だ。

7.マネーサプライとマネー・ストック

こうやって見てくると、話を複雑にしているのは一方的に日銀の側なんですね。

「マネー」という言葉の定義が果てしなく広がって、なんだか分からなくなっているというのが現状だろう。

日銀側の思いとしてはより広範に経済・金融活動を把握したいというのが狙いであろうし、そのこと自体は決して悪いことではない。

しかし、マネーという言葉を拡散することによって、「そこまで俺たちの縄張りだよ」と業務の拡大を狙っているかのようにも見える。日銀と言えども一銀行、あまり出しゃばらないほうが身のためと思うが、いかがであろうか。

最初のM1カテゴリーでは、貨幣もどきは当座預金と普通預金に局限されていた。それは随時引き出し権を貨幣もどきの根拠としていたからである。

それがM3への変更で定期預金までふくまれることになった。それは随時引き出し権ではなく譲渡性の有無を通貨の基準としたからである。さらに「広義の流動性」というまさに「広義」に拡大した。

我々が小さかった頃、お金は「お足」と呼ばれた。お金には足が生えていてすぐに飛んでいってしまうことから名付けられたようである。

そういう規定にはマネー・フローとかマネーサプライという言葉がふさわしかった。ところが「随時引き出し権もいりません。流動性も多少あればいいんじゃないですか」ということになると、どうも日銀、サプライ・サイドとしてはすっきりしない。「ストックにした方がいいんじゃないですか」ということになる。

私にすれば、「どうなりと勝手にせぇ」ということになる


とりあえずこんなところでしょうか。