鳥畑与一さんがまた赤旗に上下で掲載している。

「検証 異次元の金融緩和」という題名で、例によってファクトの詰め込みすぎで、恐ろしく消化が悪い。

まず最初に結論というか、作業仮説。

1.「異次元の金融緩和」は実体経済へのプラス効果がほとんどない。

2.それは日本経済と日銀にとって「異次元のリスク」を膨張させている。

 

A 「異次元の金融緩和」の実態

*日銀の発行通貨総額(マネタリーベース)の対GDP比は、08年に25%、13年末には40%、14年末には56%になる。

*金融機関の日銀当座預金は、バブル経済期に4兆円、現在は175兆円(対GDP比36%)。

*日銀は今後、長期国債を190兆円まで購入する予定。

*実体経済を流通している通貨量が、通貨供給量の何倍あるかを見ると、1998年には11倍、現在は4倍と低下している。

ということで4点があげられているが、これではさっぱり分からない。

まず第一点の、通貨発行総額だが、これは「異次元の増発」をしているのだから当然だ。なお記事では「マネタリーベース=日銀の供給する通貨の総額」となっているが、分かりにくいだけでなく不正確である。

マネタリーベースは日銀券の発行残高であり、流通現金と「日銀当座預金」の合計値である。流通現金というのは日銀の金庫以外にある現金で、通貨発行額+貨幣流通高ということになる。

素人的には、マネタリーベースという言葉は、日本語的に落ち着きの悪い言葉で、端的にハイパワードマネーと言ったほうがすっきりすると思う。

通貨発行額は年間実績であり(回収・廃棄分は差し引いてある)、貨幣流通高は瞬間速度として出てくる数字だ。ちょっと数字の意味が違ってくる。「日銀当座預金」は次項で解説する。

第二点が、日銀当座預金のべらぼうな増加である。これは日銀の商売相手である市中銀行の預金である。計算してみないとわからないが(記事には計算に必要な数字はない)、GDP比で見ると発行した日銀券のほとんどが、日銀の当座預金になっていると考えても良いくらいだ。

先程も述べたように、通貨発行残高(マネタリーベース)が一定だとすれば、日銀当座預金が激増すると流通現金は激減するという関係にある。したがって通貨発行額を増やさない限り市中は金欠に陥る。

第三点が、日銀の国債保有高の異常な増加だ。なぜそうなるかというと、政府が国債を大量に発行する。最大の引受先は市中銀行だ。なぜ市中銀行がこれを買うかというと、買った国債を日銀が買ってくれるからだ。パチンコ屋の裏手の両替所と同じで、カミソリを持って行くと1本いくらで買ってくれる仕掛けだ。ところで景品を金に変えても当座は使い道がないから、日銀に預けておく。

だから市中銀行の日銀当座預金が増えるのと日銀の国債買い入れ額が増えるのは、同じことを逆の面から眺めているだけのことになる。ただエコノミストはそういう言い方をするが、我々素人から見れば預金が増えるのと借金が増えるのとは決して同じではない。ここは正確に言うべきだろうと思う。

ここでは日銀の話をしているわけだから、日銀は市中銀行に対する借金が増えていることになる。その引当金を準備しておかなければならないから、これもマネタリーベースとして計上しなければならない。この辺り、どうも庶民の金銭感覚と話がずれてくる。

第四点が、実体経済の金欠だ。ここも言い方が不親切だ。ここでは実体経済を流通している通貨量=マネーストックと定義されている。

マネタリーベースと同様、マネーストック(通貨残高)についても正確な理解が必要だ。

聞きなれない言葉だが、2007年まではマネーサプライ(通貨供給量)と呼ばれていた。どこが違うかというと、マネーサプライが現金+預金であるのに対し、準通貨と呼ばれる定期積金、外貨預金などが加わったもので、中身はあまり変わらない。

マネタリーベースと同じで、素人には飲み込みにくい言葉なので、ここではマネーサプライとしておく。

この預金という項目が加わるのがミソだ。預金通帳にある100万円は、いわば銀行の借用証書だ。1万円札100枚ではない。その1万円札はどこかで使われている。だからその借用証書もお金として計算すれば、マネーサプライは2倍になる。

だから預金が多いほど、マネーサプライ(M)は増える。同じようにして手形や債券や証券が増えればマネーサプライは増える。

日銀券の発行残高(ハイパワードマネー:H)に比べどのくらい膨らむかという指数が貨幣乗数と呼ばれる。これは信用取引の発達度を示す指標であり、これが高いほど世の中の商いが活発だということになる。

貨幣乗数:M/Hは(C+D)/(C+R)となり、D(預金)が増えるほど高くなり、R(日銀当座預金)が増えるほど低くなる。

したがって、貨幣乗数の低下は実体経済の停滞とは一直線に結びつくものではない。むしろ日銀当座預金の激増の結果と見たほうが良いのかもしれない。それでもたしかに、結果としてはマネーサプライは減少するのだが…


ということで、これらの4つの数字が「異次元の金融緩和」の特徴を示している数字とは、必ずしも言えないような気がする。

その説明はあまりにも不親切で、これで話が分かる人は、そもそもこんな記事を読む必要はないだろう。