実は昨日勉強してアップするつもりだったが、勉強している内に訳が分からなくなって綺麗さっぱり消してしまった。
ピアノには間違いなく音色があって、例えばワルター・クリーンやマレー・ペライアのモーツァルトを聞くと、なんてきれいな音なんだろうと思う。逆にリヒテルやポリーニ、アルゲリッチなどを聞くと、音色をだいじにしない人たちだなと思ってしまう。
ところが、音色について書かれた文章を読むと、ピアノに音色なんかないのだと力説されている。
これは非常に困ったことになった、と戸惑っている内にアルコールが回ってきて、これは睡眠によって情報を整理する以外にないなと、思い至ったのである。
そして約24時間を経てふたたびパソコンに向かっているのであるが、ダメなものはダメだということが改めて分かった。

ダメだと分かりつつ文章を書くのは非常に辛いのであるが、やはり「ピアノの音色は骨が出す」というアイデアは書き留めておかずにはいられない。

音色=雑音説というのが現在有力になっている。
誰が言い出したかは忘れた。なにせ、昨日かっとして、書きかけの材料を全部消してしまったからだ。
外国の人だ。いろいろ実験もしていて説得力はある。
ピアノが音を出すには二つの異なった過程がある。
ひとつは人間が指で鍵盤を押してハンマーを振り下ろすに至る過程である。
もう一つは振り下ろされたハンマーがピアノ線を叩き音を発生する過程である。
第二過程において演奏者の情や業が入り込む余地はない。
とすれば、音色の秘密は第一過程にあるはずだ。

ここで、同じ鍵盤楽器であるパイプオルガン、チェンバロ、エレクトーンと比較しながら考えてみよう。
パイプオルガンの場合はキーボード操作から生じる音に比してパイプから出てくる音量はきわめて大きい。エレクトーンの鍵盤はまさにキーボードであって、携帯のボタンを押すのに近い。ピアノのような叩きこむ操作とは程遠い。ハープシコードの演奏技術は良く分からないが、ダイナミックレンジが狭く、音色で勝負というものではないようだ。


ということで、同じ鍵盤楽器でもピアノだけが、演奏者による音色の違いを問題にされていることになる。
これはピアノだけが、第一過程において生じる“雑音”を無視し得ないほどの相対的音量を持っていることを示している。
つまりピアノの音色というのはハンマーの衝撃によって発生した本来の音と、第一過程によって発生した“雑音”の合成音ということになる。

ここまでが、かなり長い前置き。
次に第一過程の分析に入る。
これは次の4つの小過程からなる。
1.指が鍵盤に当たる。これは下手くそな人が弾けば相当大きな音になる。しかしプロは鍵に触れてから力を入れるからほとんど音は出ない。時相的にも、よほど早いパッセージでない限り、音が出るまでの間隔があるので、音色の一部とは成り得ない。
2.鍵を押しこむ時にも支点の回転に伴う摩擦音と、それなりの風切り音は出ていると思うが、これは無視して構わないだろう。
3.鍵盤の下には板があって、それ以上鍵が下がらないようになっている。これを底板という。したがってある鍵を押して音を出した場合、ほぼ100%底板にぶつかっている。
この音が音色の本体である。これについては後述する。
4.指を鍵盤から離せば鍵は元に戻る。この時、鍵がひっくり返らないよに止めがついているから、鍵はそこにぶつかり音を出す。
ピアノという楽器の特殊性として鍵が元に戻ると同時にダンパーが鍵にあたり、響きを強引に抑える。ハープシコードなら相当盛大な音である。
しかし時相が遅れるから、これは雑音として聴取され、音色を形成することはない。
以上、鍵盤操作過程からは4つの音が発生する。そこで、どの程度の音量の音が、どの時相に出現するかが問題となる。
音量としては1、3、4が深刻だが、時相的に見ると3が決定的であろう。

先程からパソコンのキーを叩き続けているが、1と4についてはマシーン依存性であり、ほとんど変更不可能である。
しかし3はかなり変更が可能である。
そこには3つの選択がある。

ひとつは寸止めである。音を出すためにはハンマーがキーから離れる瞬間まで力を加え続ければいいのである。
ピッチャーは指からボールが離れる瞬間まで一生懸命投げればいいのであって、その後どうなったっていい。バッターはバットに珠が当たった瞬間振るのをやめてもいいのだ。
ピアニストは底板を打ちつけるためにピアノを弾いているのではなくて、ハンマーに鋭い初速を与えればいいのだ。
二つ目は寸止めをしないで底板まで指を打ちつけた場合だ。この場合指のどこを打ちつけるかで音が違ってくる。
指を立てて打ち付けると鋭い衝撃音が発生する。指の腹で打つと、腹の肉が衝撃を吸収する。
自分でやってみればわかるが。驚くほど音量が変わってくる。
考えて見れば当たり前の話だが、2つのものがぶつかって衝撃音を出す場合、音の高さは二つの物質の硬度の掛け算だ。
しかるに底板の硬度は一定だ。とすれば指の硬さが音の強度と周波数を規定することになる。
では指の硬さを規定するものは何か。それはポジティブには骨の硬さであり、ネガティブには皮下脂肪(軟部組織)の柔らかさである。付け加えれば皮膚の硬さである。これはコンガを叩くのと同じ原理だ。
とすれば、底板とぶつかって衝撃音を発しているのは指の骨ということになる。逆に衝撃音を弱めるのが皮下脂肪ということだ。

ティンパニーを考えてみよう。
ティンパニーは皮が振動することで音が出る。しかし最初の音は皮とバチが当たった時の衝撃音だ。
バチを変えてみれば音色の違いは明確だ。裸の木の棒ならパンパンとなるし、分厚いフェルトを巻きつけたバチであれば、遠雷のようにドロドロとした音色となる。
人間の指においては骨が木の心棒であり、皮下脂肪がフェルトの役割を果たす。
そうは考えられないだろうか。


時相的に、底板を打つ音は弦が最初の衝撃音を発する音と一致する。鍵とと別れたハンマーが弦にぶつかる時間とほとんど一致して指が底板にぶつかるからだ。9時5分前に駅で別れた友達が電車に乗って、9時に出発するのと同じに、パーキングの車に乗ってイグニッションを入れたのが9時だった、ということだ。

 このピアノの持つからくりが創りだす時相の一致という現象があり、その故に、二つの別の場所で発生された音が一つの合成音となる
そして、あたかも弦を木バチで叩いたり、フェルト巻き棒で叩いたりするかのような印象をあたえるのではないだろうか。

ピアノという楽器は二つの意味で打楽器である。ひとつはハンマーで弦を叩くということだ。そしてもうひとつは10本の指で底盤を叩くという意味においてだ。
弦を叩いた時の音は寺の鐘を叩いた時と同じで、まず衝撃音、ついでグワーンという唸りをともなう正弦波である。
50メートルも離れたら最初の衝撃波は弱まってしまう。しかしその鐘の音色を規定するのはその衝撃音である。
その衝撃音の中にピアノという木の箱を叩く音が混じっていたら、やはりピアノの音色を規定するのではないか。

たしかにピアノにはこの3つの奏法があるような気がする。
鍵盤を猫の手が掻きむしるように弾いたり、押した指を跳ね上げたりするのは一種の寸止め奏法で、底板の音は最小となる。そのかわり音は止まってしまう。ペダルを踏みっぱなしにすると次の音と混ざって聞きにくくなる。
指を伸ばしたまま指の腹で鍵盤を抑えこむと、弦の音量に比べ底板の発する音量は小さくなるから音としては柔らかくなる。指を立てて突き刺すように鍵盤を押しこめば、かなり盛大に底板は鳴り、音が粒立ってくる。


純粋にピアノの音色というのは弦の振動する音である。しかしこれに木の箱が共鳴するからピアノ独特の音色が生まれる。
エレキギターはギターではない。そこには共鳴りする木箱はない。同じ意味で電子ピアノはピアノではない。
鍵盤の底板を叩く音は、そういう意味から言って、「雑音」とは呼べないのと思う。

すみません。底板と書いてきましたが、ヤマハのサイトを見ると、棚板と呼ぶようです。でもたしか昨日の解説には底板と書いてあったような気がするが…