旧 東ドイツの崩壊以降の旧東独領の経済状況については、あまり把握していなかった。この際少し調べてみた。
で、マクロ指標を中心に手堅く紹介されている。
A) まずGDP
一人あたりGDPを見ると、東独崩壊時には43%に過ぎなかった。それが4年後には67%まで伸びた(ただしこの時西ドイツは併合不況でGDPは停滞していた時期ではある)。その後の15年の伸びは累積4%あまりで事実上停滞している。
就業者一人あたりのGDPはそれを上回り80%まで接近しているが、これも2005年以降は停滞している。人口あたりのGDPより高めに推移しているのは、就業者の減少を示している。
就業者の1時間あたりのGDPも同じ傾向を示すが、同時に労働生産性の低さと、長時間労働の傾向も示している。
これから言えることは、
1.体制間の壁は突き破られたが、産業構造上の壁が立ちはだかっている。
2.旧東独は低生産性の、労働集約型産業構造に縛り付けられ、長時間労働を強いられている。
3.就業率は低下し、人材は旧東独地域から流出している。
(B) GDPを部門別に見たものである。
建設部門は94年にピークを迎え、その後は急速に低下し2001年からは崩壊の年を下回り経過している。
この低下が失業者の爆発的増加をもたらした直接の要因となっている。
旧東ドイツの就業者数は,95年の768万人から,2000年までに715万人に,50万人以上も減少している。この後2008年までに30万人ほど就業者は増加した。しかしリーマン・ショックのあと、さらに20万人程減少した。
製造業は着実に伸びているが、製造部門の余剰人員を吸収すべきサービス部門の停滞が目立つ。これが2000年以降のGDP停滞を規定している。
製造部門とサービス部門の「逆シェーレ」については、別途分析を要する。
(C) 人口は急速に減少し過疎化しつつある
このグラフには示されていないが、実は91年以前に大規模な人口流出があった。その上で、人口は着実に減少を続けている。自然増分を合わせれば20年で百数十万人が流出したことになる。2000年まではこれに対応して西独人口が増えているが、その後は頭打ちになっており、おなじ程度で人口が減っていることになる。
東西ドイツがおなじテンポで人口減少を迎えているとしても、西側では非生産人口が減っているのに対し、東側では生産人口が減っていることになる。
逆にいうと、“にも関わらず”旧東独のGDPは下がっていないことに注目すべきなのかもしれない。
(D) 低い所得を公的援助が補っている
旧東ドイツの粗所得は,旧西ドイツの68%程にとどまっている。
相対的に低い所得水準のもとで,社会的給付が追加されることで社会的な需要が充足されている。
このためには西の諸州からの財政的な移転が不可欠なものとして続いているのである。この額は年間700億ユーロから800億ユーロに達し,旧東ドイツ域内需要の約5分の1をまかなっている。
(E) 失業率
東ドイツの失業率は,2006年まで17%を超える非常に高い水準で推移しただけではなく,常に旧西ドイツのほぼ2倍の高さで推移している。
ここで佐々木さんは次のように言う。
旧東ドイツの賃金水準は,雇用を維持するには高すぎる一方で,人的資源の流出を食い止めるには安すぎる のである。
たしかに言い得て妙だが、それでどうするのかという話になると、言いっぱなしでは済まないのである。
所得再分配機能だけでは東独のサルベージはできない、産業政策が必要なのである。問題は東独に投資さるべき資金が東独の頭を越えポーランド、チェコ、スロバキア等へ流出していることにある。
佐々木さんは続けて
東西間の経済格差問題を,統一にともなうドイツの特殊な問題として捉えるよりも,むしろ地域的な格差問題として捉えようとする方向に議論がシフトしてきている。
と書いている。これもまさにそのとおりである。しかしこれも地域格差を生み出している多国籍企業の問題にまで踏み込まない限り、現実的な政策とはなりえない。たかだか新たな地域バラマキ政策が展開されるにとどまるだろう。
ということで、東独経済をざっと眺めてみた。どうやら欧州統合、とりわけ独占資本本位の統合の前に片付けておくべき問題がかなり山積しているようである。
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