どうでもいいことなんだけど、昨日の宝くじの話。

ネタ元はただひとつ、AFPのベルリン支局が発信したニュースを時事通信が配信したもの。しかし微妙に異なる二つの記事がある。

これが一番目

【10月18日 AFP】結婚中に当せんした宝くじの賞金は、当時別居中で後に離婚した後も等しく分けるべし――ドイツの裁判所は16日、別れた元妻にも夫婦だった期間に元夫が当てた宝くじの賞金の取り分の半額を得る権利があるとの判断を下した。

元夫が宝くじを購入したのは2008年。元夫は当時既に別の女性と暮らしていたが、現在失業手当で生活している元妻とは正式には離婚していなかっ た。元夫は賞金95万6000ユーロ(約1億2800万円)を当時一緒に暮らしていた女性と分け合った。当せんから2か月後、元夫は当時の妻と離婚した。

裁判所は、元夫が宝くじを購入した時点で2人はまだ法律的には夫婦だったとして、元妻には、元夫の賞金取り分の半分に当たる約25万ユーロ(約3300万円)を受け取る権利があると判断した。

裁判所は、夫婦が結婚していた期間に生じた財産は、離婚の際には2人の間で等しく分割せねばならず、宝くじの賞金も例外ではないと説明している。(c)AFP

これがもう一つの記事

2013/10/19
【ベルリン時事】ドイツ連邦裁判所は18日までに、95万6300ユーロ(約1億2800万円)の宝くじを当てた男性に対し、宝くじの購入時には離婚が成立していなかった前妻にも賞金の一部を渡すよう命じる判決を言い渡した。

男性は2008年11月に宝くじを買い、賞金を同居女性と分け合った。前妻とは00年から別居していたが、離婚は手続き開始が09年1月で成立は同年10月。このため、前妻はまだ婚姻関係にあった自分にも受け取る権利があるとして提訴した。

裁判所は前妻の主張を認め、男性に24万2500ユーロ(約3250万円)の支払いを命じた上で、「2人が別居まで29年間 連れ添い、子供が3人いることを考慮すれば、理不尽な決定ではない」と指摘した。

邪馬台国の謎を解き明かすようなもので、元ネタは魏志倭人伝しかない。ところがこれに異本があるというところだ。想像するところ、AFPの元原稿はもう少し長くて、それを2人のエディターが別個に編集したと思われる。したがって、両者を足しあわせて考えてもあまり問題はないと思う。

これをタイムテーブル化すると下記の通り

1971年 結婚

その後三人の子供をもうける。三人の子供を産むためには、常識的に見て5~10年を要していると思われ、80年代なかばまでは正常な夫婦関係が維持されていたものと推測する。

この夫婦は旧東ドイツ市民だったと思われ、戦後のベビーブーマーに属する世代と考えられる。旧東独の結婚・離婚に対する一般的な通念が検討されなければならない。

1989年 ベルリンの壁崩壊

この夫婦は、40~50歳でベルリンの壁崩壊に伴う社会的激変を体験したものと思われる。別居に至る経過についてはこの社会的背景を念頭に置く必要がある。

この時点で子どもたちは10歳ないし20歳くらいと想像される。子どもたちにとっては進学・就職など人生の岐路に立たされる年月を激動の中に迎えることになる。

2000年 別居。夫は別の女性と同棲。妻はその後失業手当で生活をつないできたというから、貧困の中での別居であることが想像される。

しかし離婚手続きは双方とも申し立てず。この曖昧さが、この案件の最大の問題である。

一般的には別の女性と関係が出来て、最終的に別居に至ったと見るのが常識的であるが、まず別居、その後別の女性と知り合ったという経過もありうる。この辺は記事からは分からない。

旦那の方の理由は想像がつく。離婚に伴う費用を払いたくなかったからである。そういう状況であれば、子供の養育費なども払っていなかったと見るのが自然であろう。妻のほうからの申し立てがなかったことについては不明である。まず別居、しかるのちに同棲という経過であれば、それも納得しうるが…

この時点で夫婦は50~60歳に達し、すでに黄昏の時期に入っている。人生のやり直しが出来る時期は過ぎており、別居に積極的意義を見出すのは困難である。

。3人の子どもたちはすでに成人を迎えており、長子は20歳台後半に達しており、独立していた可能性が高い。

    2008年11月 宝くじを買う

    2009年1月 離婚手続きの開始

    となっているが、おそらく宝くじは年末ジャンボみたいなもので、2008年12月に1億円の当選が明らかとなったと思われる。

    そしてそれを同棲中の女性と分け合った。等分に分けあい、夫が5千万、女性が5千万円を受け取った。

    しかるのちに1月に離婚申し立てを行ったということになるのだろう。

    2009年10月 離婚が成立。

    調停中、宝くじ当選の事実は伏せられていた可能性が高い。なぜなら夫婦間の財産は基本的には1対1の分割となるからである。

    10年近い別居という事実は、信頼関係の破綻を意味するわけで、財産分割の原則を適用しない十分な理由になると思うが、失業手当で生活している妻が、そのことについて論及しないわけがないだろう。

    そして

    2013年

    元妻は元夫が宝くじに当選したことを知った。そしてそれが離婚成立前のことだったと知った。そして元夫がそれを隠して離婚申し立てをしたことを知った。

    元妻は自分の権利を裁判所に申し立て、

    2013年10月 裁判所は元妻の申し立てを全面的に認める審判を下した。

    というのが経過だ。

この判決には無理がある。だから、「2人が別居まで29年間 連れ添い、子供が3人いることを考慮すれば、理不尽な決定ではない」と述べているのである。逆に言えば、これまでの生活歴を考慮しなければ、これはまさに“理不尽な決定”なのである。いわば「大岡裁き」として見ておかなければならない。

判事としては、できれば示談ですませたかったのではなかろうか。


「みどり法務・司法書士事務所」の運営するサイトがあって、宝くじに関するトラブルを取り上げている。

小山:
そして共有財産に対して、その反対の言葉というのも、きっとありますよね。

鳴海先生:
そうですね。簡単に言えば奥さんなら奥さんのもの、旦那さんなら旦那さんのもの。そういうのは「特有財産」と言います。たとえば結婚する時の嫁入り道具は奥さんの方の特有財産です。ご自分のお父さんお母さんから相続した財産も、特有財産です。それは結婚生活の中でお互いに協力して得た財産じゃ、ないですよね。

鳴海先生:
そういうのが特有財産、ということなんですね。

小山:
で、話は戻りますと、その宝くじは共有財産…にはならないのでしょうか?

鳴海先生:
なりませんね。結婚生活の中で夫婦が互いに協力して得た財産じゃない、ということですよね。

小山:
そうですよね。別に共同で働いたから…というわけでもないですもんね。ということは、これは夫婦で分けなくてもいい、ということになりますよね。

鳴海先生:
そういうことですよね。ここでどういう点について違いが出てくるかというと、例えば離婚した場合に財産分与と言う事がありますよね。共有財産ということであればその財産分与の対象になるんですね。お互いに半分づつ分けましょうと。一方特有財産であれば、それは共有財産じゃありませんから、分ける必要が無いと。そこが大きく違ってくるんですね。

小山:
なるほど。では、宝くじが当たった場合は夫婦の共有財産にはならない、ということに。

鳴海先生:
奥さんだけのものということですね、簡単に言えばね。


ということで、今度の判決は二重に厳しいものがある。もちろんドイツの法律はまた違ったものがあるのだろうが、日本ではいくら大岡裁きといえども実現不可能だ。

ただ判決の本質は慰謝料と過去の養育費に対する償いという側面を持っており、それが離婚がすでに成立という経過から再算定が不可能という事態に対応するものといえる。宝くじがあたったことを夫が隠していたからといって、それが不作為にあたるものとも考えにくい。

法と実態の間で裁判所としてもぎりぎりの判断を打ち出したのだろうと思う。裁判費用のことを考えれば、元夫も上訴するかどうかは思案のしどころだろうが、もし断念すれば、これが判例として確定することになる。