使用料導管と金融導管 導管脱税の二つの手口

かつて「入鉄砲と出女」というシステムがあった。江戸時代の話である。五街道と呼ばれる主要道にはそれぞれ関所があり、江戸に向かうものに対しては鉄砲を持ち込まないか、江戸を離れるものに対しては女(幕府の人質)を連れ出さないかをとくに厳しく吟味したそうだ。(うろ覚えだが…)

この関所を何とかかいくぐろうというのが租税回避であり、導管国というのは、そのための裏街道にあたる。

導管国を使った関所破りのうち「出女」にあたる手口が使用料導管であり、入鉄砲にあたるのが金融導管である。

以下は本庄さんの論文から


親会社はオランダにペーパーカンパニーを立ち上げる。このペーペーカンパニーは法的主体ではあるが、経済的実質はない。

この法的主体が行うのが、トリーティ・ショッピングと呼ばれる「条約」を利用した合法的脱税である。(既述)

これは具体的には、(i) 使用料導管スキームと (ii) ファイナンス導管スキームに分けられる。

オランダ自身はゼロ税率または低税率の管轄でない。各国のタックス・ヘイブン対策税制においても必ずしもタックス・ヘイブンとされていない。

多国籍企業はこの点に着目した。

まず、利子や使用料の導管としてオランダ子会社を使用する。親会社は他国の子会社の所得をオランダ子会社に移転する。そこからオランダ経由でバミューダ等のピュア・タックス・ヘイブンの子会社に移転する。

これによりオランダ子会社の利益は限りなくゼロに近づくから、親会社は課税を免れることができる。

次に、ピュア・タックス・ヘイブンから所得を持ち出すために、金融導管(financing conduits)が用いられる。これを使うと、ピュア・タックスヘイブンに持ちだされた資金が、無税または低税率で手元に入ることになる。

そのからくりを簡単に説明すると、

タックス・ヘイブンに蓄積された利益はそのまま還流させたのではダメだ。たとえば親会社に配当の形で支払われる場合、受取配当は親会社の居住地国で課税されてしまう。それではタックス・ヘイブンに所得移転したメリットがない。

そこで登場するのが再投資というスキームだ。すなわちタックス・ヘイブン子会社に蓄積した利益を、親会社や他国の子会社への出資もしくはローンの形で再投資するというスキームを用いる。

一般にどの国でも投資は歓迎され、優遇される。ほとんどが無税だ。したがって、このスキームにより、タックス・ヘイブンから無税で資金が他国に移転される。

さらに、これがオランダ導管を通じるローンの形をとる場合は、投資や融資に係る利子分が配慮され、当該親会社や他国の子会社等の法人税を減らすことになる。

さらに当該利子に対する源泉徴収税をオランダ租税条約により減免することができる。

「一粒で二度美味しい」というのはグリコの宣伝だが、この再投資スキームは三度美味しいということになる。

(文章がえらく難しいので、誤解があるかもしれません)


トリーティ・ショッピング(既述)と書いたが、このページから入ってくる人も多いと思うので、簡単に解説しておく。

たとえば日本の法人がタックスヘイブンのトンネル会社に、貸付の形で利益を貯めるとします。当然、日本の法人はその利子を受け取ることになります。

日本とタックスヘイブンとの間には租税条約(トリーティ)が存在しないので、トンネル会社が払う利子に対しては、ほぼ無税となります。

しかし利子を受け取る側にも税金が課せられるので、日本で使おうとする限り、あまり意味はありません。

ここまでは当たり前の話です。

そこで、日本の法人がタックスヘイブンと租税条約を締結している第三国(この場合はオランダ)に子会社を作るのです。

この租税条約は、タックスヘイブンから振り込まれた利息への課税について、軽減税率を適用しています。

日本の法人はオランダの子会社あてに利子を振り込ませます。これで日本での税率との差額を手に入れることができます。

このように各国の条約の差を利用した租税回避策を「トリーティ・ショッピング」と呼びます。

第三国は利益を吸い上げるパイプ(導管:Condue)の役割をしているので導管国と呼ばれます。