朝鮮学校に対する在特会のヘイトスピーチに対する京都地裁判決

人種差別撤廃条約の国内法的効力に関して

前の記事に「わかりにくい」と書いてあるのは、梁さんのもう一つの記事のことを指しています。それがこの記事です。


差別発言の方が名誉毀損よりも、より不快で、より相手を傷付けます。しかし刑法上は侮辱罪の方がはるかに罪が軽いのです。名誉毀損罪は懲役刑もありますが、侮辱罪は拘留と科料のみで刑法典の中では最も軽い罪です。

名誉毀損も侮辱も不法行為(民法709条)にあたる民事上の賠償責任を負わせられますが、実際の賠償額を認定するにあたって、刑法上の罪の軽重を無視するわけにはいきません。

この事件では計3回の街宣とネット上での動画公開について1226万3140円の賠償が命じられました。名誉毀損に関する事件としては比較的高額な認定ですが、この高額認定にあたって人種差別撤廃条約の解釈適用を行っています。

判決理由では「第3: 人種差別撤廃条約下での裁判所の判断について」と独立した章が立てられています。

ここで、

人種差別撤廃条約2条1項は、締約国に対し、人種差別を禁止し終了させる措置を求めている。

また人種差別撤廃条約6条は、締約国に対して、裁判所を通じて、人種差別に対する効果的な救済措置を確保するよう求めている。

これらは、締約国に対し、国家として国際法上の義務を負わせるというにとどまらず、締約国の裁判所に対し、その名宛人として直接に義務を負わせる規定であると解される。

このことから、わが国の裁判所は、人種差別撤廃条約上、法律を同条約の定めに適合するように解釈する責務を負うものというべきである。

人種差別行為による無形損害が発生した場合、人種差別撤廃条約2条1項及び6条により、加害者に対し支払を命ずる賠償額は、人種差別行為に対する効果的な保護及び救済措置となるような額を定めなければならないと解される。

としています。

つまり、

1.人種差別撤廃条約が直接裁判所に義務を負わせること、

そしてその結果、

2.人種差別行為により損害を発生させた場合は、人種差別行為を伴わない場合よりも高額な賠償を認定する義務が裁判所にある

としたわけです。


と、ここまでが「判決理由」の紹介。次いで梁さんによる「判決理由」の解釈。

1.正面から法解釈を展開した画期的な判決

京都地裁判決が条約の解釈論を展開したことは、人種差別撤廃条約の解釈と適用無くしては、人種差別(ヘイトスピーチ)にこの事件の本質があるということに迫れないと考えた上でのものです。

本判決はヘイトスピーチ問題について自由裁量に逃げ込まずに、条約の解釈適用を含めて正面から法解釈を展開したという意味で画期的なものだと思います。

この裁判が今後どういう展開になるのかわかりませんが、仮に高裁や最高裁でもこの部分の解釈論が維持されれば、その傾向はより強固なものになると思います。

2.条約上の義務は裁判所だけではない

判決は普遍的な内容を含んでいます。

裁判所に人種差別撤廃条約の締約国としての義務ががあるということは、当然、行政府と立法府にも条約上の義務があることになります。

この判決は人種差別行為に関する立法や行政の不作為について露骨な言及はしていません。

ヘイトスピーチに対して全く法規制をしないという不作為自体によって失われる社会の利益があるということについて、この判決を通じて改めて考えさせられました。


ということで、分かりにくいどころかきわめて格調高く説得力のある文章です。

しかし、このあとにちょっと分かりにくいところがあるのです。そこは項をあらためて書きます。