1946年 米国のイランに対する原爆使用計画

原爆資料館の年表の真っ先にこの事項があり、これが広島・長崎後の最初の原爆使用計画ということになる。しかしその割には資料が少ない。

まずは、当時のイランの状況を知っておくこととする。

凍結されたイラン民族主義と冷戦   -現代イラン通史の試み-  その3」という富田健次さんの論文が詳しい。ただし核兵器使用計画には触れられていない

1941年

8月 イギリスとソ連邦によるカウンタナンス作戦(Operation Countenance)が実施される。イギリスのアングロ・イラニアン石油会社の安全確保とソ連邦に対する補給線の確保を目的とし、イラン政府の転覆を計ったもの。8月25日から9月17日にかけて展開された。当時のイラン皇帝レザー・シャー (Reza Shah Pahlavi) は英国からの自立を目指し、アメリカ合衆国に接近。その後ナチス・ドイツに接近していた。

9月 レザー・シャーは退位し南アフリカに亡命。新首相モハンマド・アリー・フォルギーは、ドイツとイタリアとハンガリーとルーマニアの大使館を閉鎖。ドイツ国民はイギリスとソ連の当局に引き渡される。

1943年

11月 テヘラン会談。ルーズベルト、チャーチル、スターリンがイランの独立を確認。戦争終結から6 カ月以内に撤兵することで合意。

1944年

アメリカ、イランが持つ経済的・戦略的な重要性を認識。経済使節団を派遣し在イランの公使館を大使館に格上げする。米国石油会社はイラン政府と石油利権について交渉を開始。

1945年

4月 第二次世界大戦が終了。ソ連軍はイラン北西部に3万人が残留し、撤兵を拒む。

9月 イラン領アゼルバイジャンの民衆指導者ジャアファル・ピーシャヴァリー、中心都市タブリーズで旧共産党員やヒヤバニ蜂起の残党と共にアゼルバイジャン民主党を樹立。アゼルバイジャン語の公用語化、州議会の開設と自治、地域開発への援助を求める。

ヒヤバニ蜂起: 第一次大戦後の1919年、アゼルバイジャン人の住むイラン領ギーラーン州で民衆蜂起があり、「ギーラーン社会主義ソヴィエト共和国」を樹立した。翌年には崩壊しイラン領に復する。
レーニンは「ペルシアの一部で革命をおこせば、ペルシアを英国の手中に追いやることになる」と判断し、ギーラーンへの支援を見送ったとされる。

10月 アゼルバイジャン民主党が蜂起。ソ連軍はイラン政府軍のタブリーズ進軍を阻止。

12.10 民主党軍、タブリーズなど所要都市を押さえ、国民会議を開き、アーゼルバイジャン自治政府の樹立を宣言する。

12.15 アゼルバイジャンの成功に刺激されたクルド人組織KJK(クルド建国グループ)が、イラン・クルド民主党(KDP-I)を結成。

1946年

1月 オルミーエ湖西部のマハバドでクルディスタン人民共和国の樹立を宣言。ガジ・モハマドが大統領に就任する。イラクでゲリラ戦を続けてきたムスタファ・バルザニが、3000人の仲間を引き連れて合流。バルザニは国防相に就任する。

1月 イランが国連にソ連軍残留問題を提訴。ソ連による内政干渉が続いているとし、安保理に調査・解決策提示を求める。

1月 提訴を受けたトルーマンは、「ロシアの活動は世界平和を脅かすものであり、西側世界の経済に深刻な打撃を与える」と警告。

3月 ソ連軍、撤退期日を過ぎ、さらに残留。イラン政府に対して石油利権を要求する。

3月 イランのカヴァーム首相がモスクワを訪れ、ソ連軍撤退を求める。ソ連軍の撤退と引き換えに北部の石油利権を与え、自治問題を平和解決するとの条件を提示。

4月 テヘランでの両国交渉。ソ連は北部石油合弁会社の設立を条件としてソ連軍撤退に合意。

5月 ソ連軍、撤退を完了。

6月 イラン中央政府とアゼルバイジャン自治共和国とのあいだで、自治権を大幅に拡大する協定が結ばれる。カヴァーム首相は新組閣で共産党員(ツデー党)を入閣させ、親ソ政策をとる

10月 全国各地の遊牧部族民が共産党の排除を要求して蜂起。軍部は蜂起を支持し、反乱の規模を誇張して政府に報告し、彼らの要求を飲むように迫る。英国も部族民の自治運動を支援し、アバダン沖合に英艦船を待機させる。

10月 カヴァーム首相、米国大使の助言を受け社会改革政策を撤回。共産党員を政府から排除、弾圧を開始する。

12.12 国王を最高司令官とするイラン政府軍がタブリスに進駐。

12.15 クルディスタンのマハバードも制圧。ムハンマド大統領はマハバドの広場で絞首刑にされた。

1947年

3月 トルーマン・ドクトリンが発表される。冷戦時代の幕開け。

10月 新議会、ソ連への石油利権譲渡案を否決。

10月 イラン・米国軍事協定締結。

ということで、トルーマン・ドクトリンが発表される前のことでもあり、原爆資料館の記載は少々眉唾もの。