赤旗には時々、中国人専門家の意見が単発で掲載される。
掲載された背景(何気ない肯定?)などを勘ぐったりすると結構楽しめる。
今回は上海国債問題研究院のしょう育群主任という女性。しょうという字は召ヘンに阝でWindows にはない。
見出しは
新しい型の大国関係…協力と競争が同時に進行…

文章はまず6月の米中首脳会談の評価から始まる。
「新しい型の大国関係」というのは、この時習近平が提起した考えで、「米国も積極的に応えた」とされる。

新しいというからには、「古い大国関係」というものが想定されているわけで、それは「新たに勃興した大国が既存の大国に挑戦し衝突する」関係と規定される。

新しい大国関係はそうではなく、〔大国同士が対抗せず協力する」というものだそうだ。

これだけでは分かったようで分からない。「好んで喧嘩しようとしたわけではなく、結果的にそうなってしまった」みたいなことも、過去にはたくさんあると思う。

サル山のボス争いのパターンも、そう下克上みたいな話ばかりではないらしい。


「なぜ中国はこの概念を提起したのか」と話は進む。
それは米中両国が相互に懸念を持っているからだ、とされる。
そこで「新しい大国関係」という概念を提起したのだという。

ずいぶん曖昧模糊とした話だ。これなら笹川良平の「世界は一家、人類みな兄弟」のほうがよほど分かりやすい。

ここからが本番だ。
彼女はアメリカの「アジア回帰」路線の評価に的を絞っている。

「アジア回帰」は中国にとってチャンスでもあり挑戦でもあります。
アメリカの「アジア回帰」路線は「中国封じ込め」だという議論がありますが、それは違います。


習近平うんぬんは枕詞で、ここが彼女の主張の中心のようだ。

彼女は「挑戦」という言葉を何回も使っているが、日本語の「挑戦」というイメージとは違うようだ。日本では「挑戦」も「チャレンジ」もかなり軽い言葉である。
しかし文字通りには“闘いを挑む
のであり、場合によっては戦争を挑発することまでふくまれる。
彼女が「挑戦」という言葉を使う場合、それは「脅威」という言葉の置き換えと見るべきであろう。


彼女は「アジア回帰」が「中国封じ込め」戦略の一環とはならないことの根拠を2つ挙げている。

1.中国はすでに、「封じ込めるには大きすぎる」という事実。
2.「封じ込め」は中国の怒りを買うため、米国の利益にならないという事情。

この2点目はかなり微妙な表現だ。ふつうなら「東アジアの緊張を高めるため」というべきところだが…
「封じ込め」戦略は軍事・政治をふくむ総路線だ。そこにはイデオロギーもふくまれてくる。「アジア回帰」がそういうものをふくまないと考えるのはあまりにナイーブな発想だ。
なぜなら今もなお冷戦構造は厳として存在しているからだ。米日・米韓の軍事同盟は明らかに中国を仮想敵国としたものであり、それをテコとしてアメリカは日韓両国を事実上支配し続けているからだ。

米国のアジアにおける軍事プレゼンスは、中国にとってひとつの挑戦(脅威と読め)です。

と現状を厳しく指摘した上で、

問題は、現在の地域安全保障は伝統的な2国間同盟では解決できなくなっているということです。

なぜなら

この地域の安全には中国の関与が必要になってきているからです。

しかるに

これらの同盟は中国と対抗関係にあるので、アジアの安全保障問題は難しくなっています。

これが現状なのだ。
しからばどうするか。
当事者能力のない日本や韓国と交渉するよりも、親分とさしで話をつけたほうがいいのではないか。
ということだ。
結局、「新しい型の大国関係」というのはアメリカの「アジア回帰」路線に対置された中国の総路線であり、それは突き詰めると「日韓相手にせず」路線をとるということになるようだ。


率直に言って東アジアの自主・自決、平和と安定にとってあまり歓迎すべき路線とはいえない印象だ。
日本がその気ならこちらも頭越しで行きますよ、と言わんばかりの“挑戦的”な構えだ。安倍首相がこの体たらくでは致し方ないのかもしれないが…