実に2年ぶりに家を空けました。
嫁さんはショートステイに、私は命の洗濯に金沢まで。
夕方から片町一丁目の居酒屋で飲んだあと、ふらふらと横丁に入って、突き当りのお稲荷さんを曲がって、もいちど角を曲がったら、両側に、暮れなずむ夕陽をバックに立ち並ぶ2階建ての飲み屋さんの列。
瞬間、立ちすくみました。
映画のロケのセットなのか? 私の脳みそがプッツンしたのか?
デジャブーの世界に一歩づつ進んでいくと、この店ではのれんを張り出し、その向かいはのんびりと打ち水をし、粋な姉さんのおしろいの匂いが鼻先をかすめ、刻一刻と紅灯の巷が目前に現出していきます。
まるで宮崎駿の書割がそのままの世界です。
呆然と立ちすくんでいると、若い衆が向こうからやってきて、素知らぬふうにバーの扉を開けます。
「これから?」とかけた声に、こちらに気づいて、ちょっと驚いて「あぁ、はい」と言いながら、店の中から自転車を引っ張りだして、その代わりに氷の入った青と白のクーラー・ボックスを引きずり込みます。
向かいの店の姉さんが、「そんなとこよりこっちに来なさいよ」と言いたげな目で一部始終を眺めています。
その目線を感じた僕達は、ほんとうは一軒手前の目元涼しげな女性の店に入ろうと思ったのに、つい強気になってしまって、「よしここだ!」とばかりに若い衆の店に飛び込んでしまったのです。
今日の最高気温は33度。閉めっぱなしだった部屋には昼の熱気と昨日のタバコの匂いがこもっています。若い衆は部屋の電気を付けるとクーラーを入れ、グラムロックを流し始めると、アイスピックで氷をかき始めました。
「何にします?」
「それじゃぁラムのロックでもらおうか」
と言いつつ、ストゥールに一度は腰を下ろしたが、とても座っていられる陽気ではない。グラスを片手に外に出て、戸口の脇の地べたに腰を下ろし、自転車に寄りかかります。
タイルが昼の熱気を尻に伝えます。
じっと汗ばむ夕凪に、すっと立ち上る煙草の煙。その先を揺らす何処ともなくかそけき微風。グラスのアイスがころっと音を立てた。そろそろバーに戻るとするか。

金沢シリーズ