「国債に詳しい山田博文さん(群馬大教授)の話」が、なんと文芸欄に載っている。きっと日頃金には縁のない文芸家にも分かる、やさしい話なのだろう。うん、たしかに分かりやすい。

これにならって、私も解説を書いて見ることにする。


国債は日銀ではなく政府が発行します。なぜなら国債は貨幣(日銀券)ではなく借金の証文のようなものだからです。国債の発行とは、国が借金して借金の証書を発行するようなものです。

国債の殆どは民間銀行が買います。民間銀行にとっては、国債を買うという形で政府にお金を貸すことになります。

たとえば私たちがトヨタ自動車の社債を買う場合、会社を信用して資金を貸すわけです。それは投資でもありますから、利子がついてくるわけですが、国債の場合は割引で買って、満期になると額面全額が償還されることになります。

ここまではあまり難しい話ではありません。後は満期になるのを待っていればよいのです。

それではこの話にどうして日銀が絡んでくるのか。

ここからが少々難しくなります。

銀行は国債買い入れという投資だけではなく、さまざまな投資を行なっていますが、普段は利率の低い国債よりも民間投資のほうが魅力があります。

しかし不景気になると、銀行にとって都合のいい貸し出し先は減ってきます、銀行も金利よりは安全を選ぶようになります。そうすると国債の人気が上がります。

民間銀行が貨幣を国債に変えて、じっと動かないでいると市中に貨幣がなくなってしまい、ますます景気が悪くなります。悪循環ですね。

そこで日銀はまず金利を引き下げて、民間銀行がお金が借りやすいようにします。そうするとその分市中金利も安くなって、企業や個人が金を借りやすくなります。

これは庶民にとっても住宅ローンなどでお馴染みのやり方です。これで需要が喚起されると景気が回復し、銀行は国債から民間投資へと軸足を移すことになります。

これが伝統的な金融刺激策です。

ここからがもう少し難しくなります。

97年以降の日本では、この伝統的な景気刺激策が通用しなくなりました。それまでの景気の波は需要と供給のバランスの崩れを調整する形で現れたのが、今度は構造不況と言って、そう簡単に動くものではなくなったのです。

金利はほとんどゼロになりました。さぁどんどん借りてくださいと日銀は掛け声をかけるのですが、民間銀行は借りてくれなくなったのです。

民間銀行もほとんどただで借りられるのですから、借りたいのはやまやまですが、借りてもそれを貸し出す先がないのです。

しかたがないので、日銀から借りた金で国債を買い集めるようになります。

つまり日銀がいくら金利を下げても、貸し出した金が国債購入に回ってしまうという構造は打破できなくなってしまったのです。

中央銀行が金利と貨幣の供給(サプライ)量で景気を調整するやり方を「サプライサイド・エコノミー」と言いますが、この理論が通用しなくなってしまったのです。

(このへんはものすごく荒っぽい説明であることにご注意ください)

ここから先は割と分かり易いです。

日銀が手を上げてしまったのですから、あとは政治の力で構造不況を打破しなければなりません。それには需要、とくに内需を喚起する他ありません。

日銀の歴代総裁もずっとそう言い続けてきました。自民党内閣もそれを試みたのですが、そのやり方は右肩上がりの時代の公共投資、土木・建設中心のもので、経済効果は上がりませんでした。

そこで再度何とかならないかと貨幣の供給側に話が持ちかけられました。それが量的緩和措置です。

とにかく市中にゲンナマを流せ、流し込めというわけです。今の米連邦銀行のバーナンキがその旗頭で、銀行が要らないといっても口から貨幣を突っ込めば、いずれは吐き出すだろう、という大変荒っぽい話です。

そのやり方ですが、民間銀行にただで日銀券をくれてやる訳にはいかない。そこで資産を買い取るという方法を取ります。

資産買い取りというのは、以前銀行救済の時にもお馴染みの手段ですが、これを買いオペレーションと言います。資産の中でも国債は優良な資産ですから、国債買いが先行することになります。

(これに対し金融商品や住宅ローンなどは貸し倒れのリスクが高い債券ですから劣後債、あるいはジャンク債と呼ばれます)

金融緩和で新自由主義の信奉者は景気が良くなるだろうと考えました。しかしお金漬けでジャブジャブにしても、金は市中には回りません。

銀行は麻薬の味を覚えてしまったのです。金が手に入れば国債を買う。そうすると日銀が買いオペレーションで、市中金利より高く買い取ってくれる。その金でまた国債を買う、という具合です。

ということで、ここから山田さんの話に戻ります。

現在、発行された国債の6割は銀行と生命保険、損害保険会社が持っています。

毎年政府予算の国債費は22兆円に達していますが、この内13兆円は銀行や生損保が受け取っていることになります。

さらに国債を金融商品として売買することでも利益が上がります。3メガバンクではこの国債の売買差益が業務純益の21%を占めます。

つまり、「異次元の金融緩和」で供給されたお金は設備投資や家計に回らず、もっぱら銀行の国債ビジネスに使われているのです。

こんなことを続けていって、その先がどうなるのか、その阿鼻叫喚の予想図については、また別な話としておきます。