古金さんという方の書いた「企業の海外進出が雇用に及ぼす影響について~米国の経験からみた空洞化問題の一考察~」という論文(共済総合研究 第64号)からの転載です。

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米国は海外移転の先進国である。国内の製造業雇用者数は、79年の1,943万人をピークに減少傾向を辿っている。とくに00年以降は急減し、10年間で3分の2まで減っている。

実は製造業はそれよりはるかに先んじて減少している。製造業GDPが米国の全GDPに占める比率は60年には約30%だった。それが現在では半分以下の13%へと低落している。

この時期に製造業雇用者の比率は28%から9%にまで低下している。雇用者数はGDP減少に応じて減ったのではなく、それ以上に減らされたのである。(無論、一定の技術革新はあるのだろうが)

2.多国籍企業は成長にも雇用にも貢献しない

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多国籍企業の米国内親会社は01年以降減少を続け、10年間で3.5%減少している。同期間で米国全体の雇用は1.4%増加しており、雇用への影響はマイナスとなっている。

一方、在外子会社の雇用は36.2%増加した。労働力の投入は海外子会社中心になされていることが明らかである。

設備投資についても同様の傾向が示されている。米国内親会社の設備投資は0.9

%減少した。同時期の米国全体の設備投資は17%増加しており、多国籍企業が足を引っ張っていることは明らかである。一方、海外子会社への設備投資は49%の増となっている。

著者の結論

(非常にスッキリした良い文章なので、長めに引用させて頂きます)

企業の海外進出が加速しても、高付加価値産業の住み分けにより国内は空洞化しない。国民所得は投資収益増加によって増加し、本社機能の拡充などによって雇用も増加するといった見方があるが、楽観的すぎるように思われる。

今や状況は一変している。アジア経済が急速に発展し、日本との格差が縮小している。このため、企業も従来のようなすみ分けを行う意味がなくなっている。実際、研究開発など高付加価値部門の海外進出も増えている。

海外投資による収益増加が国民所得を増加させ、それがサービス業の雇用を増加させるいわれるが、実際には、多くの仕事が海外にアウトソーシングされ、国内に残るのは生産性上昇の見込みにくい、対人サービスが中心になるであろう。

最近の米多国籍企業の活動は、在外子会社において雇用や設備投資を増やす一方で、米国内親会社の雇用や設備投資は削減した。その活動は米国経済の足を引っ張っている。

比較優位部門を含めた最近の企業の海外進出増加は、国内の雇用などにも大きな悪影響を及ぼしかねないと思われる


どこかで雇用の崖がある。それを最初の図のリーマン・ショック後の急低下が示しています。それがいつ来るか、その時国民はいかに対応するだろうか。事態はきわめて深刻です。