物事には表と裏があって、裏だけで物語を形成すると、まったく違って見えるものだ。リバーシブルのジャンパーみたいなもので、表は労務者風だが、裏返すと真っ赤な地にラメや金糸の縫い取りがあったりしてという事にもなる。

武田知弘さんの本もそのたぐいのようだ。

現在の感想としては、

①無謀な借金財政であり、最終的には「力」で以って踏み倒す以外にないやり方だったということ。

②シャハトは、4年間なら騙し続けられると考え、その間にヒトラーを手なづけて、軟着陸できると考えていたのかもしれないが、智恵者に似つかわしく浅はかであったこと。

③基本は、長く激しいリセッションを経た末の、景気循環上の上行期に一致したこと。すなわち、需要に対しサプライに余裕があり、新たなコストを発生することなく生産増大ができたこと。したがって政策的な需要喚起にも容易に対応できたこと。

ということだ。

そのことを前提にした上で、個別のアイデアとしてはいくつか着目すべきものがある。

③アウトバーン建設への集中的投資と自動車産業の育成。建設と自動車は裾野が広く、労働力の吸収性が高い。(現代ではアタリマエのことであるが)

④メフォ債という通貨代替性の信用の創造。悪く言えば“創造”と言うよりは“捏造”であるが、外貨も金も底をつく中でインフレなき成長を実現した、その「技法」(手口)は評価される。ただし、情報化時代の今なら、たちまちソブリン危機をもたらすことになるだろうが。

一方、失業対策はほとんど評価できない。私が疑ったことは、すべて事実であった。失業者を減らすのではなく、隠すための対策と言われても仕方ないだろう。
実際に失業者が減ったのは景気が回復したのと、とりわけ再軍備と軍事力強化のためである。

それで、ナチスの経験が今の日本の経済再生に何か役に立つかといわれると、基本的には役に立たない。それどころか一番やってはいけない手である。

おそらく武田さんは無理は承知のうえで、内需拡大とか職業の確保とか各種減免税のことを指して、「あのナチスだってやっていたじゃないか」と迫ろうというのが目論見だろうが、やはり政策の大本を見なくては危険だろうと思う。

どこをどうやっても、最後には「ヘンシーン!」と、戦争「ファイト、一発」に行き着くしかない政策であるが故に、部分的に見栄えが良いところがあっても、決して採用してはいけないオプションだろうと思う。

あとひとつ残るのはケインズのナチス評価だが、こちらはもう少し資料を集めてみなければならない。