勤務先の老健施設でのRSV大流行

あまり学術的には語れないが、去年暮れから正月明けにかけて当施設で風邪の大流行があった。

不幸中の幸いというか、一般棟の流行が先行して、こちらは年末までにはほぼ収束した。そして正月明けから今度は認知棟で大流行となった。結構症状は激烈で、検査ではインフルエンザ陰性であったが、インフルエンザ並みの強さだった。38度台の熱が数日続き、その後気管支炎や肺炎となる人もあり、心不全が悪化した人もいた。何人かは病院への転送を必要とした。

人から聞いて、「それはRSウィルスかも知れないね」ということになった。鑑別表で症状・経過を突き合わせてみると、どうもそれっぽい。検査はしていないが可能性は高いようだ。

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RSというのはRespiratory syncytial virus の略だ。syncytial というのは syncytium の形容形。 syncytium というのは合胞体。“A multinucleated mass of cytoplasm that is not separated into individual cells となっている。これは細胞レベルの話だが、ヒトの培養細胞においてRSウィルスがあたかも合胞体を形成するかのように集合することから名付けられたようである。

要は、「呼吸器系に侵入しかたまりを作って増殖するウィルス」ということのようだ。名付け親は衒学趣味のようで、syncytial でグーグル検索してもRSウィルスしか出てこない。

これまでは子供の病気で、高齢者にはあまり縁のない名前だ。それがどうも最近、高齢者にも広がっているようだ。「ようだ」というのは、ネット上では「ようだ」という文献ばかりだからだ。

ようやくひとつ探した。

河野さんという方が書いた、「介護老人保健施設でのRSV感染症、3シーズンの観察」という論文である。河野さんは四国地方の老健(80床)のお医者さんらしい。地方会の推薦論文になっている。

直接のデータとしては、2010年の風邪の集団発生でRSV感染が迅速検査キットで確認されたということと、それ以外の集団発生との比較対象を行なって、有意の知見を得たということである。つまり下気道感染が多く、全体に重症だったということだ。

2010年の集団感染は、1月末より約1ヶ月続いた。20人が同様の症状、すなわち鼻汁・咳・38度以上の熱発を呈した。うち7人が重症下気道感染に至った。20人のうち10人にRSV抗原迅速検査を行い、4人が陽性だった。

「それはそうでしょう」ということで省略。河野さんがかなり文献考察を行なってくれているので、そちらが興味の中心となる。

①2010年の同時期は市中でもRSVの大流行(例年の4倍)が見られた。その後の小流行時には、施設内では散発はあるものの、大流行は見られていない。すなわち一片の炎が燎原を焼きつくような大規模院内感染型のパターンを取るわけではない。

②したがって2010年の施設内大流行は繰り返し暴露によるものであったとみられる。それなりの感染予防策をとっている閉鎖的施設で、繰り返し暴露が起きたとすると、流行期には相当多数の無症候性キャリアーがいて、それがバリアーを越えて侵入したと考えられる。

③インフルエンザに比べると感染力は弱く、濃厚な接触感染が主体で、飛沫感染は少ないとされる。抗原検査陽性者は、発症後5日以降では著しく減少する。このことからも無症候性キャリアーによる持ち込みを防ぐことがもっとも重要な予防法といえる。また職員の手洗いも徹底される必要がある。

④迅速検査キットの信頼性については、高齢者においては一致した見解がない。かなりの偽陰性がある可能性もある。


ということで江別市のRSV感染情報を調べてみた。

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あたかも2012年10月から12月、わが老健の周辺ですごい爆発的大流行が起きていた。しかも江別市だけで、わずか1ヶ月のあいだに起きていたのだ。神様が江別の上だけにウィルスをばらまいていったようだ。

子供がかかって親がうつされて、それがジジババのところにまで来るタイムラグを考えるとぴったりだ。

たしかにインフルエンザの流行り方とは違う。おそらく飛沫より接触感染がメインなのだろうということと、ノロ並みにしぶといのだろう(1週間くらい生きているのではないだろうか)ということと、不顕性感染が相当広範にあるのだろうということが予想できる。