24日付で共産党が「景気回復案」を発表した。
かなりの分量の論文だが、まずアベノミクスの5つの問題点を指摘し、「5本の毒矢」と非難している。
そしてこれに対応する形で4つの柱から成るプランを提起している。

これまでの議論の集大成という性格もあり、かなりの部分が既出に属するが、この内の「第4の柱: 内需主導の健全な成長をもたらす産業政策」という部分が新しい問題を提起している。

アベノミクスというのは頭の先から足の爪先まで、とんでもない計画だが、とくに三本目の矢が完全に逆向きだ。
ジャブジャブの金融緩和をやって、インフレを起こして、一方で大規模な財政出動をやる。それ自体が大変な博打だ。
そうやって景気を浮揚させた所で、成長戦略を発動するのだが、この成長戦略というのが実体としては労働規制の緩和というのだから、開いた口が塞がらないのである。
矢の向きが逆でしょ? 安倍さん。やるべきは雇用の流動化ではなく、安定化でしょう。

不完全雇用者というのは事実上は半失業者なんです。だから国民所得が下がっているじゃありませんか、非正規が増えたから社会保障の掛け金が入らなくなって、保険も年金も持たなくなっているじゃありませんか。

ということで、それでは「真の成長戦略」というのはいかに立てたら良いのか、その見本を共産党が示すことになった。

「第4の柱 内需主導の健全な成長をもたらす産業政策」
全体は5つのポイントから構成されている。「産業政策、5項目の提案」とも呼ぶべきものである

A.働く人間を大切にして、ものづくりと産業の力を伸ばす。

①コスト削減競争の停止: 人件費の削減と下請け叩きによるコスト削減は明らかに行き過ぎだ。産業の成長力を傷つけてしまった。これをやめる。
②働く人間の使い捨てをやめる: 労働者の使い捨ては、人的資源の浪費である。現場から人材が消えてしまう。大事に育て使って行くべきだ。
③規制緩和政策の停止: 上記を合法化し、可能にしたのは政治の力であり、規制緩和政策のためだ。ルールあるフェアーな社会を再建する。

B 「選択と集中」から転換し、中小企業全体を視野に入れた振興・支援策

①大企業偏重の産業政策の停止: この間、日本の産業を破壊してきたのは大企業だ。大企業に対する過度の保護をやめる。
②下請け叩きを規制する: 下請けいじめは産業の裾野を破壊し、空洞化をもたらした。ルールある商慣行の再建。
③中小企業への「選択と集中」政策を停止: 中小企業全体を視野におく技術力の集積。振興策と適切な規制を“車の両輪”とする政策。

C 自然エネルギーの開発と本格的普及



D 基礎研究を重視し、科学技術、学問研究の基盤を強化する

①大学や研究機関の予算削減をやめる
②目先の成果に振り回されない研究体制

E 農林漁業を、日本の基幹産業、地域経済の柱として振興する

①農業つぶし政策を停止: 近い将来、必ず食糧危機が到来し、基幹産業にならざるを得なくなる。
②食料安保の推進: 食料自給率50%を目指す戦略。
③農業の持つ環境保全性を重視。
④農業の持つ広い裾野を重視。地域経済活性化の柱として位置づける。

ということで、率直な所まだ荒削りだが、全体的な骨格は見えてくる。

当然ものづくりが基本となるわけで、そこは変わらないのだが、そのための方策としては

一つは人材立国という柱である
一つは中小企業立国という柱である。
一つは研究立国という柱である。
一つは自然資源立国という柱である
そして、農業にももっと積極的な位置づけを与えましょうという柱だ。

この柱の建て方は基本的には正しいと思う。欲を言うと、これらを実現するための金融政策が欲しい。
投機資本を中心とする寄生的、撹乱的な金融ではなく、正義と公正を旨とする金融システムのあり方の追求もふくめれば、「金融立国」(国家的信託ファンド)という柱を立てるくらいの政策課題であろう。それは日米摩擦に関して長期的視点を持つためにも必要である。



それでは、大企業はどうなるんだということになる。

大企業は約半分を海外生産に移転している。主観的にどうであれ、国内から見れば、体の半分は商社化していることになる。
それはそれで自己責任でやっていく問題だろう。商社には商社にふさわしい対応がある。
しかし日本国内においては日本の産業政策と社会ルールに従って、ものづくりに貢献してもらうしかない。大企業も、母国を失いたくなければ、受け入れざるをえないはずだ。
こういう社会合意をつくり上げるのが政府の勤めである。