YouTubeでは、たくさんのレクイエム(モーツァルト)が聞ける。
そのなかで一番の演奏はコリン・デイヴィスがドレスデン国立歌劇場管弦楽団を振ったライブ録音だろう。
いつも変な方向からの評価で申し訳ないのだが、まず音がいい。
これだけ明瞭でカサつかず、疲れのこない音が聞けることはめったにない。
演奏は実に堂々としたものだ。
ヘンデルのオラトリオを聞いているような気持ちになる。

またもむかし話で申し訳ないが、パンチ穴の空いた安売りレコードのセールで、メシアとユダス・マカベウスのカップリングされたレコードをかった。
エンジェルの赤色レコードでトマス指揮聖へドウィヒ教会合唱団の演奏、バックはベルリン交響楽団だったと思う。
ユダス・マカベウスといえば、野球の表彰式のバックミュージックが有名だが、「勝者の行進」は入っていない。これにはがっくり来たが、しかし演奏そのものは悪くはなかった。もちろんドイツ語で歌っている。
ところがその後、英国人の演奏するハレルヤコーラスなどを聞くと、ドイツ人の演奏とはまったく違う。ずっとギャラントで、ほとんどイギリス国歌の雰囲気だ。

私はいつも思うのだが、モーツァルトはどうしてイギリスに行かなかったのだろう。
このレクイエムなど、ロンドンで上演したらばかうけだったろう。おそらくモーツァルトもなにがしかの報酬を得て、大散財をやらかしていただろう。

モーツァルトというのは基本的にロココの人だ。ロココというのは基本的にギャラントでなくてはならない。ド派手であって初めて、モーツァルト独特の繊細さが生きてくるのである。

コリン・デーヴィスはさすがにその辺の勘所を外してない。やはりこの男、ただものではないという気がしてくる。