今回の訴訟はノバルティス社対インド政府ということになっているが、最初からこの訴訟に深く関わってきたのが「国境なき医師団」だ。

だから裁判所内ではノバルティス社対インド政府だが、外では国境なき医師団対ノバルティス社の闘いという様相を呈している。

したがって、訴訟の模様は実に詳細に国境なき医師団のHPに記載されている。

少しその記事を紹介しておこう。ただし国境なき医師団というのは少々クセのある団体なので、一定の距離感は保っておく必要がある。

ノバルティス訴訟の年表

というのが載せられている。

まず06年1月、ノバルティス社が申請したメシル酸イマチニブ(グリベック)の特許をインド政府の特許庁が却下したことから、事件が始まった。

特許法の第3条(d)というのが却下の根拠とされた。第3条(d)というのは、実質的な新薬でない限り、投与法などを変えただけでは特許を認めないというものだ。

これを受けたノバルティス社は、ただちに却下処分の取消を求め提訴した。提訴理由は、この処分がTRIPS協定およびインド憲法に違反するというものだった。

TRIPS協定の正式名称は、「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」である。これはWTOの定めたもので、加盟国に医薬品の特許を認める義務を負わせる協定である。
前の記事にも書いたとおり、インドはWTOの加盟義務として06年に特許法を改定し、医薬品にも特許制度を適用した。その結果、インドで特許が認められた医薬品については、ジェネリック薬を製造・販売できなくなった。

この裁判はマドラス高裁での審理の結果、ノバルティス社側の敗訴に終わった。ノバルティス社はさらに控訴し、今回4月の最高裁での審理の結果最終的に棄却された。

どうも、赤旗の記事は国境なき医師団の主張のつまみ食いのようだ。

赤旗の記事で釈然としない処は国境なき医師団の記載でもはっきりしない。

①グリベックはいわゆるエバーグリーニング薬品なのか。

②グリベックは物質特許を目指しているのか、製法特許を目指しているのか。

③エバーグリーニング薬品に特許が降りれば、第三者によるプロトタイプ薬品の生産・販売も禁止されるのか。

そこでウィキペディアで調べてみると、

イマチニブ:Imatinib 商品名はグリベック:Glivec

まごうことなき新薬で、しかもかなり革命的な新薬だ。何か既存の新薬の一部を細工したというようなものではない。

慢性骨髄性白血病の治療薬として開発され、10年ほど前から臨床使用が開始されている。

日本におけるグリベックの問題点については、伊勢崎市・長沼内科クリニック 長沼誠一さんの「【診察室】抗がん剤グリベックの問題点」という文章が、実に痒いところに手の届くような解説を書いてくださっている。

すると

グリベックはエバーグリーニング薬品ではなく、プロトタイプの薬品もない。当然物質特許をめざしており、特許が取得されれば、ジェネリック薬品の製造・販売は禁止される、ということになる。

したがって、今回のインド最高裁の判決にはかなり無理があると言わざるをえない。


だからと言って、ノバルティス社の肩を持つわけではない。

製薬会社は過去にエイズに対するアバカビルの特許乱発による高薬価維持で、圧倒的な不評を買った。もし第三世界のジェネリック薬品が広がらなかったら、世界中で何十万という人が死んでいただろうと思われる。

まさにヒトラーなみのジェノサイドである。