以下は、下記のファイルの要約と感想である

2011 年 6 月
JETRO海外研究員(ニューデリー)
久保  研介
 
特許制度改革後のインド医薬品市場をめぐる政策動向
 

1. 医薬品特許承認後の変化

2005 年、インドは初めて医薬品関連発明の特許保護を承認した。
このあと、国内の医薬品市場は大きく変化した。

第一の変化は、特許薬の登場である。

13 品目前後の新薬が物質特許(有効成分を保護する強力な特許)の対象となった。
理論的には、特許権者である先進国の新薬メーカーが、模倣製品を排除したうえで価格を高めに設定し、利益をあげることができる事になった。
とはいえ、インドの医薬品市場に特許保護の概念が浸透してきたことは、注目すべき変化である。
それまでは、新薬がインドに導入されるや否や、地場メーカーの合法的コピー製品が市場に出回っていた。

二つ目の変化は、外資系企業の存在感が急速に高まっていることだ。

インド最大の製薬メーカー、ランバクシーが第一三共に買収された。米国のアボットが地場の有力メーカー、ピラマルの国内事業を買収した。
多国籍製薬企業の投資を促しているのは、新たに特許保護が導入されたためであろう。

2.特許制度への反発

これに対し、インド国内では製薬産業が外国企業に占められることに対する懸念が強まっている。

また、医薬品価格の規制のあり方についての議論も活発化している。これまでは製品市場における複数のメーカー間の競争によって価格が抑制されてきた。特許保護が本格的に導入されると、競争圧力が排除され、価格が上昇することが予想される。

国民の大多数が健康保険を持たないインドでは、価格の上昇はヘルス・アウトカムの悪化、ひいては医薬品利用の減少を意味する。

これに対し政府は、価格規制制度を強化し、特許薬を含む多くの医薬品を新たに規制下に置くことで対応しようとしている。(そんなことしたら、TPPに入れないぞ!)

3. 特許薬をめぐるせめぎあい

特許制度が導入されて最初の適用となったのが、ロシュ社のペガシス(インターフェロン)などであり、がん治療薬が目立つ。

新薬メーカーが問題なく特許権を行使できているわけではない。地場メーカーや NGO(例えば国境なき医師団) による異議申立制度が最初の障壁となる。たとえばロシェ社は、異議申立を受け、エイズ関連感染症治療のアシクロビルの特許出願を取り下げた。

インドの地場メーカーによる特許薬の模倣生産・無断販売は、むしろ活発化している。少なくとも三つの薬(タルセバ、ネクサバール、バラクルード)が販売されており、いずれも特許侵害訴訟に発展している。

インド政府は原則として、後発医薬品は新薬の特許ステータスとは無関係に承認できると主張している。

後発メーカーは、侵害訴訟で敗訴した場合、先発メーカーの遺失利益を遡及的に支払わなければならない。しかしインドの医薬品市場はさほど大きくないので、大手の地場企業ならば負担できる範囲に収まる。