赤旗のCD評で、ペイエとカピュソン四重奏団の演奏するブラームスのクラリネット五重奏曲を褒めていた。
新譜のはずなのに、どういうわけかYouTubeで全曲が聞ける。YouTubeの演奏は11年のものとなっているから、おそらく実演のエアチェックなのだろう。それが良かったのでレコーディングまで漕ぎ着けたということかもしれない。
いかにも今風の演奏で、チェロやビオラががバリバリ押し出してくるのが特徴だ。ペイエもどちらかといえば明るい音色で、クラリネット協奏曲を吹いている感じである。
まぁよく知られている曲で、みんな知っていることを前提にすればこれでよいのかもしれないが、結果としてメロディーラインがさっぱり浮かび上がってこないから、曲としての面白みがどっかに行ってしまう。
聞いていてイライラしてくる。

多分音のバランスがものすごく難しい曲だと思う。
クラリネットというのは、音域からいえばビオラと同じで、みんなで同じ大きさの音を出せば、その中に埋もれてしまう。かといってクラリネットばかりに気を使っていると、主旋律が聞こえなくなってしまって、「音は出ているが音楽は聞こえてこない」というざまになる。

だから第2楽章のクラリネットの泣かせどころでは、みんな弱音器をつけて息を潜めつつクラリネットに付き従うのである。

第一バイオリンも辛い。弦楽4重奏にビオラがくっついた五重奏みたいななかで旋律線を浮かび上がらせつつ、豊かで美しい、要するに金属的でない音を出さなければならないのである。

これが出来ているのは、ただひとつ、ライスターとアマデウスの演奏だけである。

この演奏はおそらくライスターが仕切っているのだろうと思う。ライスターは徹底的に息の量の多いくすんだ音色で貫いている。協奏曲でもないし独奏でもない。この曲のための音色だ。

そしてこの音色と音量に合わせろと主張している。第一バイオリンはこの音色に合わせて、ひたすら柔らかい音で、だが出すべき音量はしっかりと出している。
ほかの三人はとにかくこれに合わせて音色も音量も抑制する。

尾崎紀世彦の歌だ。
二人でドアを閉めて、二人で明かり消して、
そのとき心は何かを、探すだろう

曲の最後に、クラリネットが消え入った後、4人が思いっきり音を合わせる。その音の大きさに、「よく頑張ったな」という感じが出ている。

ペイエとエルサレム四重奏団の演奏では、クァルテットの方はそういう雰囲気でやっているが、ペイエの方にその気がない。シュミードルとウィーン・ムジークフェライン四重奏団は、みんながそれなりの音を出して、それに第一バイオリンが対抗するから、バイオリンの音が堅く浮いてしまう。

端的に言って、指は動いても耳の悪い連中がこの曲をやってもダメなのである。