英フィナンシャル・タイムズがチャベスの死で大はしゃぎしている。
3月7日には、社説で取り上げた。題して「チャベス亡き後の前進のチャンス」だ。正直でよろしい。
まずはイギリス人らしい皮肉と嫌味と当てこすりのオンパレードだ。ここは飛ばす。
次いで、「ベネズエラに緊張の芽」ということで3つの緊張要素をあげる。
①派閥が支配する政権内で結束を維持すること
②大統領選挙での現政権と野党との戦い
③失政や汚職、インフレ、モノ不足、さらにはカラカスを世界で最も危険な都市の1つにした暴力の急増
だがフィナンシャル・タイムズは3つを列挙したあと、③以外はあまり問題にはならないと自白している。
ついでフィナンシャル・タイムズはベネズエラ革命の成果に難癖をつける。
ベネズエラは当然ながら、貧困率を2000年の52%から2010年の32%まで引き下げたことを誇りに思っている。
これに正面から反論できないので、迂回作戦をとる。これは“うまく行ったらひとのせい、悪く行ったらお前のせい”というおなじみの論理だ。
①「だがそれは“自国経済を略奪する”ことによって成し遂げられたのだ」
要するに経済の実女を顧みないバラマキ政策の結果だというのが一つ。
②多くの国は、チャベスがやったようにことなく、ベネズエラと同等ないしそれ以上の成果を上げた。
成果の相対化である。きわめてありふれた難癖のハウツーである。
「より実際主義的な選択肢を具現化し、もっと著しい成長を遂げる太平洋同盟諸国がベネズエラに取って代わるだろう」
この辺りは思わず笑ってしまう。
③格差を縮小することに関しては、ベネズエラは最も成績の悪い国の1つだ。
これは“中南米のシンクタンクSEDLAC”の統計だそうだ。得体のしれない数字を持ってくるのも、よくやる手口だ。
④石油に基づくベネズエラの経済モデルは他国では繰り返せない。
チャベスのイデオロギー的な存在感と小切手帳がなければ、地域におけるベネズエラの影響力は衰えていく。(だが、小切手帳は当分無くなりそうにない。おそらくそこがフィナンシャル・タイムズが苛立つ最大の理由だろう)
「チャベス主義がモデルだった時代はとうの昔に去った」
これも変な話で、“チャベス主義がモデルだった時代”が、かつてはあったということを認めているようにも聞こえる。フィナンシャル・タイムズはそれを第二次大戦直後のペロンに擬している。
ただそれは、ペロン主義がわずか10年足らずで破産したのに、チャベスが大統領に就任して既に15年を経過し、ますます発展しようとしている現実が説明できないことの告白でしかない。
「チャベスは結局、…大勢の人物の1人に過ぎなかった」
これはある意味で、私も同意する。“中南米諸国に一体感のある自意識を与えた”人物は決してチャベス一人ではなかった。しかしもっとも影響力のある人物であったことは疑いない。
彼の生涯は、中南米の歴史-ポピュリストの軍事独裁者の歴史-の退行期の終焉を象徴している。
ここまで来ると、もうあかん。
締めはこうなる。
チャベスは貧しい人たちを大事にし、テレビ宣教師のような堂々たる態度でその愛を示した。感動的な話だ。それでも彼の死は、この地域にとって助けにしかならない。
実に感動的な話だ。
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