「日本における資本蓄積体制の機能不全と賃金デフレ」
芳賀 健一

一番興味を覚えたのは、賃金デフレの原因を、“伝統的”低価格競争にあるとしている点である。

しかし周辺事情については、データも揃えてしっかりとした(しっかりし過ぎてくどい)主張になっているが、肝心のこの部分の論証が論拠に乏しい。

とりあえず結語部分だけ、ポイントをあげておく。


①98年の金融危機と、2002年のITバブル崩壊を受けて総需要が急収縮する過程で、企業は価格切り下げ行動を強化した。

②その手段として、高度成長期以来の価格切り下げ戦略を踏襲した。すなわち人件費を中心とするコストダウンである。

③しかし高度成長時代と異なり、コストダウンはスケールメリットの拡大により相殺されないため、結果として、利潤は労働者の所得を削ることによって生み出されることとなった。

④外需は内需減退を支えたが、額そのものは(海外移転もあり)減少傾向にある。これからも支えになるとは考えにくい。

⑤これらの転換は、基本的に金融の意向抜きに進行した。金融の機能不全が経済成長システムに与えた影響は、長期的には大きいとは言えない。したがって現在において、金融政策をいじることによって得られる効果は期待できない。


低価格競争論は平成不況論のミッシング・リングかもしれないが、ただちに「おぉ、そうか!」と相槌は打てない。

価格競争は、日本企業にとって未だに「呪縛」となっているのかもしれないが、いずれパラダイム・シフトが起こるのは必至であろう。それは本格的な政権交代抜きにはすまないだろう。