従軍慰安婦問題で安倍晋三がNHKに圧力をかけた経過については、ウィキペディアのNHK番組改変問題が詳しい。まずはそこから紹介する。(ただしこの項目については「この記事は検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です」というコメントがついている。)


(以下は私の文章であって、ウィッキペディアの記載を読んだ上での感想である)

改変された番組の名前は、ETV特集シリーズ「戦争をどう裁くか」の第2夜「問われる戦時性暴力」というもの。NHKはこの番組を2001年1月30日に放送した

番組の内容に、「日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷」という模擬法廷の紹介がふくまれていた。この集会は2000年12月12日に開催された。

この集会は、「“戦争と女性への暴力”日本ネットワーク」(VAWW-NETジャパン)というNGOが主催したものである。VAWW-NETジャパンは、「戦争と女性への暴力のない21世紀をめざして」活動している。(この団体の政治的背景についてはここでは省略する)

集会での「判決」は、「天皇裕仁及び日本国を、強姦及び性奴隷制度について、人道に対する罪で有罪」という、かなり過激な表現であった。

すでに放映前にいろいろあったようで、右翼団体が抗議行動を開始している。内部でも内容変更の指示があったと思われ、秦という人物の批判発言が挿入された。

番組そのものは、「肝心の判決内容が一切紹介されず、誹謗や批判が一方的に放送された」(VAWW-NETジャパン)ものとなり、時間も40分に短縮された(週刊新潮)。

と、ここまでが放映までの経過。

そして2月2日には中川昭一(経産相)が番組制作局長と会見した。伊藤局長は「実は内部で色々と番組を今検討している最中です」と述べている。

この情報の出所はフジテレビの報道番組とされている。おそらく中川サイドからの情報と思われるが、すでに放映終了後とすれば、内容がチグハグである。週刊新潮は「局長を呼び出し釘を刺した」と書いている。

おそらく中川の介入は放映前から始まっていると思われる。

この話はいったん収まるが、4年後の05年1月にNHKで内部告発があった。ほぼ同時に朝日新聞でも報道があり、おそらく同じソースと思われる。

これによると、

安倍晋三(官房副長官)と中川が番組内容を知り、「公正中立な立場でするべきだ」と求め、やりとりの中で「出来ないならやめてしまえ」という発言もあったという。

NHKは二人との会見の事実を認めた上で、安倍との会見が“放送前日あたり”、中川との会見は放送後だったと発表した。

ここは相当やばい橋を渡っていると思う。もし制作局長が“恐れながら”と喋りだせば、NHKの幹部は総辞職だ。逆に中川の方は“記憶違いかもしれない”と切り抜けられる。

ここから安倍晋三がはしゃぎ始める。

ウィキペディアによると、

各社の 報道番組に出演し、朝日新聞の報道を否定し、放送法に基づいていればいいという話 であったと述べた。

この放送法に基づいていればいい というのがクセモノで、そのあとに放送法に抵触しているかのようなほのめかし発言を行なっている.いわば内部告発を逆手に取った右翼のキャンペーンである。

①「法廷」の検事役として北朝鮮の代表者が2人入っている

②この2人は、日本政府により北朝鮮の工作員(=スパイ)と認定されている。そしてペルソナ・ノン・グラータとして査証の発行を止められている

②の話は重大で、査証の発行を止められている人物が、日本国内にいること自体が犯罪行為である。あちこちのテレビの特番で、官房副長官がペラペラ喋って良いことではない(05年時の肩書きは知らないが)。

ウィキペディアではこれについて、下記の如き<注>が添えられている。

但し、当該人物がどのような理由で工作員とされたのか、またどの官庁が認定したのかは明らかにされなかった。

つまり、自らの責任を問われた安倍晋三は、出所不明の情報を至る所で飛ばしまくることで、ウヤムヤにしてしまったのである。

「相手が悪いやつなら、どんな手を使ったっていいんだ」ということだ。しかも「悪いやつ」かどうかさえ定かではない。

「攻撃は最大の防御である」ということになるのだろうが、そこには安倍晋三という人間の狂気が透けて見える気がする。日本国を担う人間として、民主主義に関する感覚に根本的な欠落を感じる。

この「狂気」にNHK幹部は恐怖を感じたのではないか。

このあと、NHKは安倍とつるんで朝日新聞に逆襲をかける。NHKは安倍の共犯となる道を選んだ。

なおこれはひとつの憶測にすぎないが、次のような説がある。

NHKにとって一番の恐怖は、朝日が持っているとされたNHKトップ幹部のインタビューの録音記事だった。

しかしこのテープは当人の承諾を得ないまま録音された可能性が高かった。したがって朝日は証拠として提出できなかった。そこに権力が動いた可能性は否定出来ない。

あるいは他の要因かもしれない。しかしどうもこの事件でNHKは安倍晋三に借りを作った経過があるような雰囲気だ。


のちに安倍晋三は最高裁判決の後に以下のごとくコメントしている。

「最高裁判決は政治的圧力を加えたことを明確に否定した東京高裁判決を踏襲しており、(政治家介入があったとする)朝日新聞の報道が捏造であったことを再度確認できた」とコメントした。

要するに一片の反省もないということだ。

NHK自らが、会見の事実は認めている。それが放映の前だったことも、話の内容が番組の内容に及んだことも認めている。当時の安倍の肩書きは官房副長官だ。

なお、「政治的圧力を加えたことを明確に否定した」とされる東京高裁判決であるが、ウィキペディアによれば産経新聞さえ下記のごとく書いている。

高裁判決は「NHK幹部が政治家の意図を忖度した」と指摘している。最高裁判決では、これに関してまったく触れられなかった。

ところで高裁判決のこの部分は、「…忖度して改変を繰り返し、編集の自由を自ら放棄した」と続いていく。

さすがは産経らしい引用の仕方だと思うが、肝心なことはそれではない。高裁判決のこの部分については、最高裁判決は否定も肯定もせず、憲法判断をスルーしているだけだということである。