インドの民衆運動

今日,インドは世界最大の人口を抱える国です.現代インドのイメージはしばしば貧困・低開発などに象徴されますが,それはインドという巨大な国を表すイメージの一面に過ぎません.

インドには言語・宗教・社会・文化の驚くべき多様性があります.したがってそのあいだには常に強い緊張が存在しています.それは混乱を生むこともあります.しかしそれらが統一の方向に進めば,その多様性は創造力をはらむものでもあります.

インドで産業の発展が遅れた理由

もともとインドに産業がなかったわけではありません.それらは英国植民地時代に破壊されたのです.

独立後,インドは強力な公共部門を建設することで産業発展を図りました.化学,電力,鉄鋼,輸送,石炭,繊維,金融などの基幹産業は急速に拡大しました.

しかし1980年代に入ってそれまでの産業政策は大きく転換しました.LPGと呼ばれる経済構造の変革が急速に進行しました.LPGというのは自由化(Liberalization),民営化 (Privatization),世界化(Globalization)の頭文字をとったものです.

農産物の価格保証・食糧配給制度は解体されてしまいました.これらの矛盾は最下層カーストであるダーリットにしわ寄せされ,封建制度の残滓である筈のカースト制度がむしろ強化される結果となっています.


ダーリットについて

正確に言えばダーリットはカーストの一つではありません。社会の外に排除され,かつて不可触賎民と呼ばれていた人たちです.インドで4人に一人はダーリットです.ダーリットの権利は憲法に保障されていますが,社会からの非人間的な排除,資源からの排除で苦しまなければならない状況は変わっ ていません.

インドのカーストは4つのバルナ(階層)からなっています.最上位がバラモン,次がクシャトリヤ,これは士農工商の 士にあたります.次がバイシヤ,これが商です.最下層にあたるのはシュードラで,日本語で言えば奴婢ということになります.ここから先がよく分らないので すが,不可触賎民(dalits)ということで,これは階層とは関係なしに特定の職業にかかわる人ということで,日本語で言うとエタ・非人です.

他の階層の区別は分りにくくなっているのですが,ダーリットだけは特定の職業と結びついているだけになかなか差別が 解消されないようです.もうひとつは,ダーリット階層の政治力が信じられないほど強いことです。例えばビハール州の政権は長年ダーリット政党(ジャナタ・ ダル)が握っており,ウッタルプラデシュ州でも,もうひとつのダーリット政党(Bahujan Samaj)が,他の低位カースト政党と連立政権を組んでいるそうです.


民衆の苦しみ

インドでは,大都市における貧困層の爆発的増大が問題になっています。

あなたは世界の十大都市を言えますか? いろいろな統計のとり方はありますが,ムンバイ・ブエノスアイレス・カラチ・マニラ・デリー・サンパウロ・ソウル・イスタンブール・上海・ダッカというのが現在のランクです.インド亜大陸の都市が1,3,5,10位を占めているのです.絶好調のときの日本ハム並みです。ちなみに東京は15 位.ニューヨーク17位,ロンドンが20位となっています.

そこでは古臭いカースト制度がむしろ強化され,宗教原理主義の温床となっています.そして貧困者や低位カースト,女性や子供,人権活動家などに対して血生臭いテロ.虐殺・拷問が繰り返されています.

なかでもすごいが,やはり子供の人身売買の問題です。「インド・タイムス」のレポートを紹介します.

インドでは年平均3万人の子供が失踪している.その4分の1は地上から消滅したようだ.臓器移植に用いられた可能性もある.保護された女子のうち,9割は売春行為で起訴されている.そして8割が有罪となっている.いっぽう取引業者160人のうち警察に記録があるものはわずかに二人だ.明らかに警察のシステムに問題がある。


さまざまな運動の統一

この国の女性も,進んだものと遅れたものの双方から被害を受けている階層です.この国の多くの人々が生活に苦しんでいるからこそ,女性にそれがしわ寄せされているのです.

だからこの国の女性運動は,たんに性差別の問題を取り上げるのではなく,政治の革新を中心課題として離さないのです.そして異なるタイプの運動を幅広く統一する柔軟さを失わないのです.

ガンジー主義者,社会主義者,共産主義者,さまざまな社会運動,ダーリット組織がともに立ちあがりつつあります.それはただ選挙のときだけではなく,日常の市民活動の中でさえそうなのです.

コミューナリズム(宗派主義)は,グローバリズムと並んで,インド社会が闘わなければならない重大な問題となっています.世俗主義(セクラリズム)を守り支えるために,多くの組織が立ちあがりつつあります.

世界社会フォーラムのホームページから