西部地域の経済発展センターを目指す「重慶モデル」


張紀潯  日本重化学工業通信社「アジアマーケットデビュー」

この記事は作成日時が記載されていない。内容から見ると2009年半ばに書かれたものと思われる。重慶モデルが注目され始めた最初期のものであろう。

 

西部地域の経済発展センターを目指す「重慶モデル」

1997年に直轄市 設立以降の10年間、重慶市は年平均10%以上の経済成長を続けてきた。08年の経済成長率は14.3%で全国平均値の9.1%より5.2ポイントも高くなっている。

今年に入って中国の新聞は、「重慶モデル」という用語を使い始めた。いったいどのような特色をもつモデルだろうか。

ここではその発展要因を、①産業構造、②経済の牽引力、③人的資源、④政府の役割、という四つの角度からみたい。

①潜在的な競争力をもつ重慶の産業構造

重慶の工業は重工業を主とする各部門が揃い、補完能力に優れている。抗日戦争がはじまった後、国民政府は都を重慶に移し、工業企業が次々に重慶に移ってきた。近年は、軍需産業をベースに誕生した自動車、オートバイ産業が急成長を遂げている。

重慶での外資系企業の生産額は重慶工業生産総額の 20%にすぎない。重慶は外資系企業と輸出貿易への依存度が相対的に低いため、世界的な金融危機の影響を免れている。

表5 2007年重慶の重要な工業製品

主要な工業製品

生産額

前年同期比±%

 石炭(万トン)

2,711.65

13.2

 天然ガス(億m³)

5.00

15.9

 発電量(億KW)

351.96

26.4

 鋼材(万トン)

436.57

13.9

 アルミ材(万トン)

81.13

20.0

 セメント(万トン)

2,819.92

11.0

 化学肥料(万トン)

154.20

18.3

 自動車(万台)

70.80

36.2

  うち 乗用車

41.80

58.9

 オートバイ(万台)

638.25

19.9

 タバコ(億本)

426.00

4.9

 ビール(万リットル)

76.49

7.5

②旺盛な投資と消費

重慶の固定資産投資は終始一貫2ケタの伸び率を保ってきている。07年度の社会消費品小売総額は、前年同期比18.4%増加している。さらに内需拡大政策の実施により、都市と農村住民の可処分所得が向上し、消費環境が大きく改善された。重慶経済への貢献率は24.1%に達している。

③経済格差を経済発展の原動力に変える人的資源

重慶市と沿海地域との経済格差が逆に重慶の経済発展を促す原動力になった。

全社会固定資産投資、社会消費品小売総額、輸出(外資導入)という三大需給関係から沿岸部と比較すると、まだ大きな格差が残されている。とくに輸出(外資導入)は大きく立ち遅れている。

07年に重慶市の常住人口が2,816万人に達 しているが、農村人口は60%以上を占めている。つまり工業都市でありながら、農業都市でもあり、多くの潜在労働力を抱えていることになる。

労働力の供給が豊富だけでなく、労働コストが安いという優位性をもっている。重慶市の従業員年平均賃金広州、上海、北京の約半分である。また重慶の工業用地価格は、北京、上海の3分の1程度で ある。

④経済成長を促す政府の役割

07年10月に中国商務部長を務めてきた薄煕来が重慶党書記として着任した。

薄書記は外資導入の拡大、農村改革、山峡ダム移民対策、都市建設、低所得層の底上げという五大政策を打ち出した。なかでも外資導入と都市建設(緑化)に力を入れており、大連モデルを重慶に適用しようとした。

結果として外資導入増加が際立っている。2008年の外資導入は27億ドルで前年比2.5倍に達した。また金融危機の対策として、都市インフラの整備が進められた。これは雇用創出、内需拡大、不動産活性化をもたらした。

重慶は農村経済を重点的に発展させるために、産業構造を調整し、農民工を大量に雇用する サービス業を優先的に発展させた。農民収入の増加が前述の個人消費と固定資産投入の増加につながっている。