「ロザムンデ」を聞いて、「真夏の夜の夢」を聞いて、本当にぶるぶる震える。
21世紀のこの世に居て、お祭り小屋を覗いているような気分になってしまうのだ。
お尻はわずかな月の光が頼りの闇夜。突っ込んだ肩から先はまばゆいばかりのろうそくの明かり。こんなにもくっきりしているのに、まるで夢か幻の世界。
この世のものとは思えない音が、媚薬のように空間を満たし、空気をつつみこみ、そこいら中を飛び交っている。
その音を紡ぎ出しているのは恐ろしい顔の大男、謹厳な顔をして女歌手に片っ端から手をつけるむっつりスケベだ。
しかし彼が両手のあいだから作り出すのは、体がしびれるほどに官能的な音なのに、どこかとても上品で堂々としていて、旅回りの芸人とはまったく別の音だ。

こんな空間を作り出したのは、クレンペラー以外にいない。
これからももう出てこないだろう。光まばゆい近代都市の現代的なコンサートホールでなく、ろうそくの炎の下で演奏しない限り、この怪しげで妖しげな音を聞くことはできないだろう。

クレンペラーは、夜の恐怖を知る子供にとって、そういう子供時代を過ごした大人にとって、永遠の神様だ。