イッセルシュテット・WPOのベートーベン交響曲全集がyoutubeで聞ける。
下世話だが、まず音質がよい。youtube、いろいろ厳しいが、故人の場合は比較的スル-されるようだ。
これが絶品だ。とにかく木管の音がいい。ファゴットがこれほど堪能できる音源もないだろう。ビオラも「こうやって鳴るんだ」と驚くほど聞こえてくる。110年前に生まれた人が45年前に演奏した音が、どうしてこんな風に聞けるのだろう。恐ろしい。

そのすべてが良いとはいえないが、カイルベルトとヴァントは好きな指揮者だ。イッセルシュテットも、それ以上に好きな指揮者になった。

イッセルシュテットという名を聞いたのは、親父からだった。オケ伴専門の指揮者で、冴えない印象だったが、戦前のSP時代にはブイブイ言わせたものだったそうだ。当然ナチの協力者だったわけで、戦後は干されたものだと思っていた。
金のない高校生時代に、グラモフォンの廉価盤へリオドールというレーベルがあって、ドヴォルザークの管楽器のセレナーデと、チャイコフスキーの弦楽のセレナーデがカップリングされていたのを聞いていた。結構何十回と聞いたよな。
レコードなんか買えずにもっぱらソノテープだったから、それに毛が生えたくらいの演奏家だろうと思っていた。
大学に入って聖公会の寮でヌヴーとのブラームス協奏曲を聴いたときも、ヌヴーしか印象にない。そのうちロンドン・レーベルでWPOとの交響曲全集が出たわけだ。
実は当時まったく聴いた記憶がない。「レコード芸術」で毎回推薦盤になっていたことは知っていたが、金出して聴けるわけもないから、「レコ芸なんて」とやせ我慢していた。
FMを丹念にエアチェックしていれば聞けたろうが、その頃からかなり学生運動が忙しくなっていた。夜中に下宿に帰れば、誰かが寝ている、下宿のおばさんには一言、二言言われたなぁ。それをいま45年遅れで聞いているわけだ。

それにしてもいい音だ。近いのか遠いのか良く分からない。人工的といわれればそれまでだが、それが何が悪い、と叫びたくなる。ウィ-ンフィルもどっぷりと浸っているぞ。

Wikipedia でみると、この男、相当変だ。
1900年生まれだから相当昔の人。ビール会社の御曹司で、モーツァルトに狂って音楽界に入り、ナチが政権とるころにはいっぱしの指揮者になった。ナチには入党しなかったが、テレフンケンの売れっ子指揮者になる。奥さんがユダヤ人で、骨折ってイギリスに亡命させることに成功。しかしその隙に座付きの歌手とできてしまい離婚。
ナチのおかげで成功したにもかかわらず、戦後は「非党員」を売りにして早速英占領軍に取り入り、できたばかりの北ドイツ放送交響楽団の正指揮者に就任。30年近くその職に留まる。

こんなやつ前にもいたぞ、と思ったら西条八十だった。

この人、意外にレコードがないのだそうだ。モーツァルトもシューベルトもないようだ。だからこの全集は一世一代の、乾坤一擲の録音だそうだ。しかも息子が録音技師。幸せだよね。

今7番の終楽章。ええぞ!