VIII. 日本列島の大構造と太平洋型(都城型)造山帯の新たな視点

 1980 年代から本格的にはじまった日本列島のプレート造山論研究は、受動的大陸縁が活動的大陸縁に転換するという大筋を1990 年代前半に解明した。そしてさらに新たな視点が解明されつつある。

一方で,従来の素朴な造山帯形成史の理解は多くの誤りを含んでいたことが露呈しつつある。

現時点での日本列島の地体構造の特徴およびそこから導かれる太平洋型(都城型)造山帯の基本構造について議論する。

 1)忘れるべきこと

 近年の研究によって誤りであることが明白になった既存の理解・概念が少なからずある。日本列島のテクトニクスを議論する際に無用な混乱を避けるためには,それらは忘れさらねばならない。

 代表的なものは,以下の通りである。

(1)日本列島は地理的に近接する北中国地塊の周辺で生まれ,成長した,

(2)日本列島で最も重要な地質構造はフォッサマグナと中央構造線である,

(3)中央構造線の起源は白亜紀までさかのぼる

(4)日本海は観音開きの回転運動で開裂した,

(5)日本列島の主要な地体構造境界は高角度断層で画される,

(6)黒瀬川帯などの蛇紋岩メランジュ帯は地殻深部から上部マントルにまで達する高角度横ずれ断列帯である,

(7)日本列島の複数の横ずれ断層は1000km を越える変位をもち,日本のある部分はベトナムの近辺から移動してきた,

(8)日本列島は,横ずれ断層で境された複数のテレーンから構成され,それらは両隣の地質体とは成因的関係をもたない,

(9)付加体が形成されなかった期間はプレートが大きく斜め沈み込みしていた,

(10)付加体の成長はつねに海側へと前進する方向でおきた,

(11)いったん形成された弧地殻は消滅せず,大陸縁は海側へ成長し続ける,

(12)島弧が衝突するたびに造山帯の地殻総量が増える,

などの考えである。

今後の日本列島形成史ならびに太平洋型造山運動に関する議論は,これらの誤った概念から脱却して進めなければならない。

 2)日本から世界の造山帯研究へ

 2-1) 造山帯の中核部としての広域変成帯の三次元構造

造山帯の形成は,定常的なものではなくきわめて間欠的である。欧州ではカレドニア,バリスカン,そしてアルプスという3 回の独立した古典的造山運動が識別されてきた。

日本列島には少なくとも6 回の高圧変成作用が起きた。すなわち6 回の造山運動のクライマックスがあった。それらはおのおの間欠的な海嶺沈み込みに対応していた。そのなかで三次元形態が明示されたのは,石炭紀,トリアス紀,白亜紀である。構造浸食に伴う二次的改変のために、相対的に古い高圧変成帯はその形態を失ってしまった

 2-2)造山帯の後背地変遷

 LA-ICP-MS による砕屑性ジルコンのU-Pb 年代測定は,これまでまったく知られていなかった大きな変化が古生代から中生代における日本の後背地で起きたことが示された

トリアス紀中頃におきた南北中国塊同士の衝突によって接合した大陸内に巨大な山脈が形成され,大陸から膨大な量の陸源粗粒砕屑物が海洋側に供給された。それは衝突帯の東北端から太平洋岸の海溝沿いに日本近辺へ運ばれた。

中新世に明瞭な背弧盆である日本海が形成されると,その時点で大陸からの流入は根絶した。中新世以降,日本が完全に大陸から独立した島弧になったことが実証された。

 2-3)花崗岩バソリスの消失

 日本では5 回の花崗岩バソリスの形成と4 回の大量消失が起きた。

従来は斜め沈み込みによる付加プロセス自体の停止というad hoc な説明に終始してきたが,実は構造浸食によっていったん形成された付加体が消失したことになる。

日本列島内の造山帯構成要素の体積比較に関して最も印象的なのは,BTL より下位を占める白亜紀後期以降の付加体および高圧変成岩が莫大な総量をもつことである。

 2-4)構造浸食と蛇紋岩メランジュの形成

 2-5)地体構造境界の階層性

 2-6)大陸地殻の沈み込み

IX.おわりに

 プレートテクトニクスに基づいた造山論は1960 年代末にはじまったが,とくに海洋プレート沈み込みが支配する太平洋型(都城型)造山帯については,日本列島での研究が最も進んだ。とくに構造浸食プロセスと蛇紋岩メランジュ帯形成がもつ地質学的意義は強調されるべきである。

蛇紋岩メランジュ帯は造山帯内の第一級の地体構造境界であり,最優先の検討課題である。

 最後に,本稿で述べた主要な結論を以下に整理する。

 (1)大陸側に分布する飛騨帯および隠岐帯はアジア形成以前に存在した大陸塊の破片をなし,ともに北中国地塊に由来する。

 (2)西南日本の肥後帯は,北中国と南中国地塊との間の2.3 億年前衝突帯の東方延長にあたり,その構造的下位の日本列島の大部分は南中国地塊の縁辺で形成された。

 (3)花崗岩を除く日本列島の表層地殻主部のほとんどは,古生代から新生代の付加体およびその高圧変成部から構成される。しかし古い単元は形成後に二次的に消滅した。前弧域は海洋側への付加・肥大と,大陸側への構造浸食・縮退を繰り返した。

 (4)蛇紋岩メランジュ帯は,過去に起きた構造浸食作用の痕跡である。この面に沿って膨大な弧地殻の消失が起きた。

 (5)太平洋型造山帯内部の地体構造単元境界には,異なる性質のものが含まれる。(略)

 (6)海洋プレートの沈み込みという体制が維持されても,つねに付加体が成長するわけではない。日本列島の海側への成長はきわめて間欠的であった。構造侵食を乗り越えて、約5億年間に約500 km 海洋側へと成長した。