VII. 日本の主要な構造線:

目立つ副次的構造線 vs. 造山帯の大構造を規制する主要構造線

 1)目立つ構造線

 日本列島全体の地質構造を記述する際,これまでは中央構造線やフォッサマグナ(糸魚川—静岡構造線)の説明からはじめるのが一般的・伝統的であった。その背景には,ナウマン以来広く知られたこの2 つの明瞭な構造が日本列島の大構造を支配しているという暗黙の合意があった。

明治初期にはじめてこれらの目立つ構造を発見・記載したナウマンの貢献は特筆されるべきだが,しかし現在のプレート造山論の観点からは異なった解釈となっている。この2つの構造は長期間にわたって日本列島の骨格をつくってきた主要なプロセスとは無関係で,むしろきわめて新しくかつ副次的なプロセスの産物である。

若い地質構造,とくに高角度断層や褶曲軸は、その形成後に二次的な改変を被る時間が短いため,比較的明瞭な直線性を保持していることが多く,その結果として地形図ならびに地質図上で目立つことが多い。古期の地質構造は,重複変形を被った結果,地表での直線性としては認識されにくくなる。

本章では,まず伝統的に注目されてきた日本列島の主要な目立つ構造線についての現代的解釈を整理する。

 1-1) 中央構造線(Median Tectonic Line; MTL)

その起源を中生代白亜紀までさかのぼると考えられてきた。またMTL 沿いに大規模な横ずれ変位を想定する強い固定観念が日本の地質学者の間にできあがった。MTL の両側の基盤岩の年代や地殻深部での三次元形態が不明であったため,MTL 出現期の解釈についてはこのような大きな誤解・混乱が存在していた。

しかし白亜紀から現在に至るまでMTL が横ずれ変位をし続けてきたとみることは,その間に対曲構造やフォッサマグナの形成をはさんでいるのできわめて不自然である。

最近の研究成果に基づくと,中央構造線の本質は大規模な横ずれを伴う高角度断層ではなく,弧に直交する方向の短縮を主体とする低角度衝上断層であることが示された。

古中央構造線(Paleo-MTL)は,おそらく新第三紀の日本海拡大に前弧域の短縮の結果として活動した。

 1-2) 棚倉構造線(Tanakura Tectonic Line; TTL)

 この断層は中新世に日本海が開裂した時にその東端で活動した高角度横ずれ断層である。基本的に日本列島形成史のなかではきわめて若い地質構造であり,主要な造山帯の構造ができた後に二次的に改変をもたらした要素である。

TTL とMTL とを、一連の大規模な大陸縁横ずれトランスフォーム断層とみなす解釈があるが、互いに異質なTTL とMTL がかつて連続していた可能性はまったくない。北米西岸のサンアンドレアス断層と比較することも大きな誤解に基づいている。起源,形成機構,オーダーのどれをとってもまったく異なる。

 1-3)フォッサマグナ(Fossa magna)

 フォッサマグナの西端を限る糸魚川—静岡構造線は,ゆるくS 字状に波曲しながらもほぼ明瞭な直線性を示す断層である。この構造線は西南日本の帯状配列を明瞭に切断している。このことから,フォッサマグナが造山帯の主要構造を二次的に改変する若い地質構造であることは伝統的に理解されてきた。

フォッサマグナは日本海内に生じたトランスフォーム断層の南方延長で弧地殻がリフト化した結果とみなされる。

一方,フォッサマグナの東縁関東平野の厚い堆積物の下に埋没しているため詳細は不明である。しかし,西南日本の東西方向の帯状配列に対し,東北日本は南北方向の地体配列で特徴づけられ,その間に明瞭な構造ギャップがあることは明白である。

フォッサマグナは日本列島の大構造が形成された後にできた副次的な構造の1 つであり,古生代以来の主要な大構造の成立にはほとんど貢献していない。

 2)造山帯の大構造を規制する主要構造線

 上述の見かけ目立つ構造線は,いずれも造山帯の構造を二次的に改変するものにすぎない。日本列島の造山帯全体の構造を規制するより重要な構造線は別に存在する。それらのなかには,いまだに相対的な認知度が低いものも含まれている。

日本列島の形成史を考察する上でとくに重要な5つの構造線がある。長門—飛騨外縁構造線、大佐山—青海構造線、石垣—玖珂構造線、古中央構造線、仏像構造線である。なかでも後三者は太平洋型(都城型)造山帯の内部構造を規制する重要な構造線である。

 2-1) 長門— 飛騨外縁構造線

 山口県西部から山陰地方の海岸沿いに東方へ追跡され,新潟県西部で日本海へと消える。地図上に追跡されるさまざまな時期に変形・変位した断層群の総称である

この境界よりも大陸側の地質体はすべて既存の大陸地殻由来の物質で構成される。これに対し海側に産するものはすべて古太平洋底の海洋プレート沈み込みによってマントルおよび海洋プレートから新たに分離・形成された新規地殻物質である。

日本列島に関係する新規大陸地殻の形成開始を画する第一級の構造境界とされる。日本が南中国地塊縁辺の受動的大陸縁から,活動的大陸縁に転換したことを象徴する境界で,約5億年前にはじまった日本列島独自の地殻形成の開始線と意義づけされる。

 2-2) 大佐山— 青海構造線

 中期高圧変成岩の代表的産地である岡山県の大佐山地域と新潟県の青海地域にちなんで大佐山—青海構造線と呼ぶ。広域の地図上ではNg-HmTL とほぼ一致するようにみえる。

弧—海溝系を特徴づける,弧花崗岩,付加体,高圧変成岩,そして前弧盆帯堆積物という4 種の要素が存することから,前弧地殻がいったん形成され、二次的に消去されたことを意味している。

 2-3) 石垣—玖珂構造線

周防帯の下底として東方へ追跡され,中部日本の上越地域で日本海に没する。西方延長は瀬戸内海西部を横断して九州北部で大きく東へ反転・迂回し,再び豊後水道をわたって四国西部で中央構造線(Neo-MTL)に断たれる。 一方,石垣島において同様な累重関係が確認され,広域に連続する石垣—玖珂構造線と命名された。

石垣—玖珂構造線は日本の付加型造山帯を古生代と,ジュラ紀以降に分ける大きな構造境界をなす。

おそらくジュラ紀付加体の形成がはじまる前に大規模な構造浸食が起こり,先行して形成された古生代後期の造山帯産物が大量に消失したことを暗示している。

 2-4) 古中央構造線

Paleo-MTL は,関東から九州まで追跡されるが,九州東部でS 字状に屈曲し,肥後帯の南縁を通って有明海に抜ける。Neo-MTL は,リニアメントが明瞭な四国と紀伊半島に限定され,Paleo-MTL を切断している。

 2-5) 仏像構造線

沖縄本島から関東まで,ほぼ連続的に2000 km 以上追跡される。

先白亜紀の前弧地殻が構造浸食で消失した前線の痕跡とみなされる。