第三アーミテージ報告

これは、浅井基文さんのホームページに載せられた論文の学習ノートです。イタリック体の所は報告の原文です。

興味のある方、納得がいかない方、文章が変だと思われた方は原文に当たってください。

 

三つの報告の流れ

*2000年、2007年に続いて2012年8月に3回目のいわゆるアーミテージ報告が発表されました。3回の報告の内容を比較対照しつ、今回の報告の特徴点、問題点を検討します。

第一報告「アメリカと日本:成熟したパートナーシップに向けて」(2000年)

米ソ冷戦が終結して、ソ連に代わる敵を「見失った」アメリカは、軍事戦略を正当化する根拠・材料(新たな敵)を見いだせませんでした。

クリントン政権入りしたジョセフ・ナイは、いわゆるナイ・イニシアティヴによって日米軍事同盟の再編強化の処方箋を書きました。

自民党政権は、アメリカの「カネだけではなく血も流せ」という圧力を利用して、自衛隊の海外派兵への道筋をつけました。

第一報告は、冷戦後の漂流を払拭し、アメリカのアジア支配の戦略の方向性を明らかにすること、その中での日米同盟のあり方についての方向性を示すことを目的としていた。

 

第二報告「日米同盟 2020年に向けてアジアを正しい方向に持っていく」(2007年)

2007年は、ブッシュ(子)政権の2期目も後半に入り、対テロ戦争の破綻が誰の眼にも明らかになって来た時期です。

アーミテージ国務副長官は、対テロ戦略とアメリカ一国主義を、多国間協力を重視するものに見直すという意図で報告をまとめました。

ブッシュ・小泉の下で日米軍事同盟は、アメリカにとってもっとも望ましい方向に向けて大きく「前進」しました。このため日米軍事同盟はアメリカの対アジア政策の中心に据えられました。

 

第三報告「日米同盟 アジアの安定の錨となる」(2012年)

第三報告の最大の問題意識は、2009年の民主党政権登場以後「日米同盟関係が漂流」してきたという危機感です。アメリカが漂流状態の日本にカツを入れることに主眼が置かれています。

背景にあるもっとも重要な要素は対中認識の変化です。2007年には慎重な期待と警戒を織り交ぜていました。しかし今回は期待感は跡形もなく、台頭する中国に対する全面的な警戒感が根底に座っています。日米が協力して立ち向かう必要を強調するものになっています。

日本をアメリカの戦略につなぎ止めるためには、 アメリカとして日本に精一杯の大盤振る舞いをしなければならない。中国と対抗するために、日本の果たすべき役割・比重がそれだけ重くなっていることを示しています。

この戦略が民主党政権の危険を極める対中対決政策を促しているわけですから、第三報告はまったく危険きわまりない代物です。

 

第三報告の主要な内容

第三報告の内容には取り上げるべき点が数多くあるのですが、ここでは、第一報告及び第二報告との比較を心掛けつつ、主要点にしぼって解説しておきたいと思います。

<むきだしになった対中警戒認識>

第三報告の最大の特徴は、中国をアジア太平洋における最大の脅威とみなしていることです。したがって対中対決・軍事包囲網形成戦略を対アジア戦略の中軸にすえています。

中国が高い経済成長を続ける前提に立った、「関与と(軍事的)備えとのブレンド」という戦略はもはや確実ではなくなった。

中国が深刻に躓くようなことがあれば、指導者は、ナショナリズムに訴え、対外的脅威を利用して統一を組み立て直そうとするかもしれない。そのとき(日米)同盟にとっては…正に質の異なる挑戦に直面することになる。我々としては彼らがいかなる判断を行うかについて十分な備えを行うべきだ。

<朝鮮半島:韓国及び米日韓関係の重視>

第三報告は、「近隣諸国との関係」という項目において、「強固な米日韓関係」を強調しています。

李明博大統領は朝鮮と対決する政策を推進してきました。韓国は経済的躍進と米韓貿易自由協定(FTA) によって、アメリカにとって極めて重要な同盟国の地位を確かなものにしました。

米日韓は、北朝鮮の核兵器追求を共同で抑止し、中国の再台頭に対応する必要がある。

日米同盟がその可能性をフルに実現するためには、日本が対韓関係を複雑にしている歴史問題に立ち向かうことが不可欠だ。同時に、国内政治上の目的 のためにナショナリズムの感情を利用する誘惑に抵抗するべきだ。両者のいさかいは、戦略的に優先度の高い項目から目をそらすものである。

第三報告では、6者協議の枠組みにもはや期待を寄せず、中国 が主導してきた6者協議の枠組みに対しても懐疑的になっている。

<日米軍事同盟の変質強化と日本の軍事的役割>

第三報告における一大特徴は、日米軍事同盟の変質強化の方向性を極めて具体的に述べていることです。

日本は平和で法的な海洋環境、妨害のない海洋貿易、そして全般的な安寧を促進するために、パートナーとの協力を引き続き進めるべきだ。

このくだりは、中国海軍の外洋進出に対抗するために、日本がさらなる役割を担うことを求めているものです。

「日本防衛」と地域的安全保障との間の境界は薄い。日本は、国家防衛のために攻撃的な責任を必要としている。両同盟国は、日本の領域をはるかに越える…能力と作戦を必要としている。

という記述もあります。日米の対中対抗軍事戦略が止めどもない勢いで突き進められようとしていることが分かります。中国の日米軍事同盟に対する懸念と警戒が決して杞憂でもなければ、誇大妄想でもないことが分かります。

アメリカにとって最大の障害と見なされているのが日本側の集団的自衛権禁止という「制約」です。第三報告では、集団的自衛権禁止を「時代錯誤の制約」と決めつけます。

両軍は集団的に日本を防衛することを法的に妨げられている。この皮肉は、日本が集団的自衛権の禁止を変更することで完全に解決できる。政策の変更は、平和憲法を変更することをも必要としない。

第二報告では、「憲法問題を解決」することが望ましいとしていましたが、もはや憲法そのものを改定しなくても、集団的自衛権を「合憲」とする日本側の「政策変更」で、憲法第9条を底なしに空洞化させることが可能だと認識するに至っているというわけです。