国際面のトップは「ブラジルで格差縮小」というものだ。
元々ブラジルは経済格差ではあまり自慢できた国ではない。ルーラが大統領に就任した年、ブラジルのジニ係数は0.58だった。それが2年後には0.51程度まで下がる見通しだというもの。しかも国内民間機関のバルガス財団による試算だから、あまり当てにはならない。11年時点の実数では0.53とされている。

とはいえ、世のなか西も東も格差拡大という中で、経済成長を遂げながらの格差縮小というのはたいしたものだといわざるを得ない。

現在、1300万世帯が貧困世帯向けの家族手当を受給している。また最低賃金を連続的に引き上げ、正規雇用の拡大、融資条件の拡大などを行ってきた。この結果、極貧層は2800万人減少した。


ルーラもルセフも経済政策の基本は新自由主義的なポジションである。ルーラも就任前にアメリカに一札入れているし、就任後も前政権の厳格な緊縮政策を踏襲した。

そのなかで経済政策としてではなく、補完的な社会対策として「飢餓ゼロ」計画を打ち出したに過ぎない。だから旧共産党(PCB)系のリベラル派はルーラを厳しく批判したし、ラテンアメリカの革新勢力のあいだにも、「ルーラは革新ではない」とか「独占資本に魂を売った」などとの冷ややかな雰囲気が漂っていた。

結果として、貧富の差が縮まったのだから、ルーラとしては鼻高々だろうが、私はもう少し冷めた見方をしている。

ルーラは決して金持ちのフトコロに手を突っ込んでいない。極端に言えば、貧困層相手にバラ撒きをやったに過ぎない。しかしその程度でジニ係数が5%も下がるような目覚しい変化が出るわけはない。

これはおそらく産業構造の変化がもたらしたものだと思う。植民地・帝政時代以来の寄生階級(地主や商人や銀行主)がますます肥え太るような産業分野ではなく、製造業を中心とした新たな資本家層による新興産業の発展がブラジルに成長をもたらしたのではないか。(少し裏付け資料を探してみよう)

だとすれば、ルーラの功績はメルコスールを中核とする域内貿易を発展させ、それを南米全体に拡大し、そのなかで盟主としての地位を確立したことにあるのではないか。
とくに、南米諸国間にウィン=ウィンの関係を作り出したことがブラジルに対する信頼を獲得しえた最大の要因と思われる。(60年代中米共同体では域内強国エルサルがエゴを剥き出したために崩壊した。それは80年代中米ゲリラ戦争へと導いた)

盟主は我慢しなければならない。そういう場面が必ず二、三度はある。そういうときに国内の資本家階級を押さえられるか、この政治力が決め手だろう。(いまのメルケルにも同じことが言える)

たとえばボリビアが天然ガスの国有化に踏み切った。ペトロブラスの所有するガス田も接収された。このときルーラは国内を押さえた。パラグアイとの国境にかかるイタイプ・ダムではパラグアイの要求した電力料金の引き上げを呑んで、国内を押さえた。
アルゼンチンとの自動車摩擦も乗り切り、キルチネルとの盟友関係を維持することに成功した。
チャベスが突出しても、南米全体の利益になる限り、それを影から支えた。(カナリヤと思えば腹も立たない)

これらの外交手腕にはなみなみならぬものがある。そしてそれらの判断が結果として、ブラジルの成長と繁栄をもたらしたとなれば、新興資本家階級としても歓迎せざるを得ないことになる。

この路線がチリやコロンビアの保守党政権にも少なからぬ影響を与えていることは間違いない。エルサルバドルのFMLN政権は明確にルーラ路線を目標に掲げている。

ブラジルの成長と発展を見る際には、ここがキーポイントとなるだろう。