外国子会社合算税制における新しい概念について

税務大学校研究部の保井教授が書いた論文に以下のくだりがある。

外国子会社合算税制の目的は、租税回避の防止に他ならない。租税回避とは我が国の課税 ベースの侵食であり、具体的には、軽課税国に設立した外国子会社を利用して、我が国においても運用し得る資産をそこで経済合理性なく運用することで当該資 産に係る所得を付け替え、また、実体のない外国子会社やその事業活動に経済合理性のない外国子会社を利用して所得を稼得することにより、我が国の課税ベー スが侵食されることとなることを防止することであると考えられる。

難しい用語がたくさん並ぶが、租税回避とは脱税のことであり、タックスヘイヴンを利用してさらに儲けて、所得を隠すことである。

合算税制というのはそれも企業の収益に付け加えて、脱税を防止することだ。

しかるに

我が国企業の連結所得に対する法人税の実効税率は、これまでは配当すれば我が国の法人税実効税率に近似せざるを得なかったが、外国子会社の所得については我が国の法人税実効税率に関係なくその所在地国における課税で終了することとなったことから、我が国の法人税実効税率よりも低い国で課税が終了する所得を増加させることにより、我が国企業の連結所得に対する法人税実効税率を引き下げることが可能となる。

恐ろしく難しい文章だが、噛み砕けば以下のようになると思う。

今度の改正では、20%以上の法人税がかかる国(たとえば中国)で税金を払ったら、それで終わり、日本ではいっさい払わなくて良いという事になる。

日本の法人税率の半分だ。これは企業にとって大変な誘惑である。

トリガー税率は、英国では法人税率27%に対し約20%とされ、米国では法人税の最高税 率35%に対し31.5%(最高税率の90%)であることと比較すると、現行の我が国のトリガー税率20%は国内実効税率の約半分となっており、国内実効 税率とトリガー税率との開きは約20%と大きい。

これが非合法の脱税まがいでなく堂々と通用することになった。こんなおいしい話があるだろうか。

もう一つの抜け道

20%以下の国(たとえばケイマン)なら、このほかもう一つの抜け道がある。海外配当への課税ゼロという法律だ。だからゲンナマで日本に持ってくれば20%の税金がかかるが、このカネで債券を買ってその配当を取得するという方法なら税金はただになる。

それどころか、日本で儲けたカネを子会社に「投資」してその配当をもらうことにすれば、利益隠しの手段としても有効だ。

保井教授は、

国際租税制度は、平成21年度改正で外国子会社配当益金不算入制度が導入された。この導入により、資産を軽課税の外国子会社に移転し当該資産に係る所得を配当として非課税で還流するといった誘因が高まった。

と悔しさをにじませている。

なお海外配当非課税制度については下記を参照されたい。

海外配当への非課税

保井教授は

適用除外基準を満 たす特定外国子会社に所得を付け替えるような租税回避行為を防止するため、新たに一定の資産運用的な所得を本制度の対象とした。剰余金の配当、債券の利子、特許権等の使用料、船舶又は航空機の貸付けの 対価等といった資産性所得を合算課税の対象に取り込んだ。

と「新しい概念」について書いているが、正直むなしい。こういうのをごまめの歯軋りというのだろう。とはいうものの、現場の皆さん、がんばってください。あなた方のガンバリが、辛うじてこの国を支えている。