ワルターの未完成というのは、むかし田園と抱き合わせのLPで、中学校の音楽室のガラス戸棚に並んでいて、授業で聞かされたんだったかなぁ?
とにかくあの頃の高校受験には音楽もあって、ベートーベン=運命、シューベルト=未完成というのが定番だった。

とにかくこの未完成という曲がすこぶるつきにつまらなくて、曲は第二楽章で未完成だが、こちらは二楽章に達する前に沈没だ。だから、ワルターの、とくに第二楽章は聞いたことがなかったというのが正確だ。

LPというのは片面30分、両面で1時間だから、この曲の長さは埋め合わせようにちょうどいい長さで、だからやたらと出たんじゃないかと思う。開き直るようだが、私は眠くなるような名曲というのはうそだと思う。

高校に入って、新世界が無性にほしくて、ちょうどエピックからセルの新世界と未完成の抱き合わせが出たのを買った。

その頃、普通のLPは2千円、新盤の話題盤は2300円とかした。それが1800円だからお買い得だ。しかも新世界に未完成までおまけがついてくる。

あの頃は新世界一曲でLP1枚、という売りかたも平気でしていた時代だ。リヒテルとカラヤンのチャイコフスキーは1曲で裏表、それが2300円だった。

しかもFM放送で大宮真人さんという解説の人が、「セルの未完成はいいぞ」とほめまくるから、ついに清水の舞台から飛び降りた。

田舎の中学だったから、卒業生の3割は就職組みだった。初任給は3千円くらいだったと憶えている。だから私の1ヶ月の小遣い千円というのは申し訳ないくらいの高額なのだが、その2か月分をこんなものに叩こうというのだから、思わず震えてしまう。

レコード屋さんのケースからいったんは取り出すものの、結局またケースに戻してという逡巡を2,3度繰り返したあと、ついに買ってしまった。片思いの彼女に声をかけたときの気分だ。

それで聞いてどうだったかというと、ベアトリーチェが普通の可愛い子ちゃんだったということだ。

いま聞いてもこの演奏はつまらない。だいたいセルはつまらない指揮者だ。走者が出たらバントで送る。打率2割5分なら打者二人のどちらかがヒットを打つ確率は5割、チャンスが二度あれば1点は入るという計算で動く監督だ。

というわけで、未完成とはしばらくおさらばした。それがケルテス(昔はケルテッシュといった)の演奏で、「未完成って面白いじゃん」となった。

ちょっと長くなったので、ここでいったん切ります。