Ⅲ.歳入減少の要因

消費税が導入され、さらに3%から5%へと増加した。リーマンショックまでの10年近く日本経済は長期にわたる「好況」を維持して来た。それにもかかわらず、税収は累計で177.3兆円減少した。これがなぜなのかが一番の焦点である。

梅原氏は局面ごとに税目別分析を加えているが、これといった特徴は浮かび上がってこない。好不況を問わず所得税・法人税が一貫して猛スピードで低下していることが分かる。

とくに好況局面にあった第4局面で、所得税・法人税の減少が100兆円に達していることが注目される。97年不況をはさむ第3局面での減少が60兆円であることを考えると、この数字の意味は重い。

なお第4局面では「小泉改革」にもとづき所得税の一部が地方移管されていることに留意しなければならない。

IV‾.歳出増加の要因

梅原氏は、保障関係費,公共事業関係費,国債費の主要3経費を中心に整理している。

第一、第二局面ではバブル後不況を乗り切るため、また日米協議にもとづいて公共事業が大幅に突出した。20兆円前後の歳出増は他部門の圧縮(とくに地方交付税)により、その3割が埋め合わせられた。

第三局面以降、社会保障関係費が増加し始め、第4局面で一気に49兆円の増加を示した。一方、公共事業関係費は第4局面では5.6兆円の増加にとどまった。

問題は社会保障関係費の内訳である。

保障関係費のこれまでの累計支出額は110.8兆円である。その内訳は,社会保険費89.9兆円(81.2%),生活保護費10.0兆円(9.0%),社会福祉費6.8兆円(6.2%),失業対策費4.0兆円(3.6%),保健衛生対策費0.7兆円(0.1%)となっており、社会保険費が圧倒的比重を占める。

以下は社会保険費の分析になるが、2008年度に社会保険費の内容が大幅に変わり,データが非連続になったため,とりあえず2007年度までの集計となる。従って分母となる累積の数字は64兆円となる。

社会保険費の主要内訳は、

1 老人医療・介護保険給付諸費が28.1兆円(43.9%)

2 厚生年金国庫負担 19.3兆円(30.2%)

3 国民健康保険助成費11.9兆円(18.6%)

となる。(介護保険給付は2001年度から費目設定)


この内訳を見ると、老人医療・介護保険給付諸費が第三局面以降急増していることが、社会保険費増加の主因であることは明らかである。

V 財政危機の背景としての雇用・賃金の構造変化

この老人医療・介護保険給付諸費における30兆円の赤字積み増しは、社会保険料の伸びと社会保障給付の伸びとの差し引きである。

社会保障給付が一貫して増大しているのに対し,社会保険料の伸びは1998年頃から低下し,ときにはマイナスになっている。それが国庫負担の増大を招いている。

社会保険料の伸びが低迷している原因は、事業主負担分の減少による。従来は事業主の方が被保険者より多かったのが,2003年度からは被保険者の方が多くなっている。

社会保障給付費は90年に約500億、それが2008年に940億と約2倍に増えているが、ほぼ上昇は着実なものである。

一方社会保険料収入は90年に395億、08年に574億と1.45倍にしか増えていない。この差し引きが持ち出し分になるが、これが77億から400億に急増しているのである。

社会保険料収入が1.5倍といっても、97年にはすでに現在の水準に達しており、それから10数年にわたり伸びはゼロである。これが第三期間のあと急速に赤字幅が膨らむ原因となっている。

社会保険料の内訳を見ると被保険者負担が184億から300億円(1.62倍)へと着実に増加しているのに対し事業主負担は98年の286億をピークに微減状態にある。


このことから分かるのは、98年以降突然「高齢化」危機が襲ってきたわけではないということである。

第一に、保険料収入は給付に見合うだけ増加していないことである。これは主として国民の所得(雇用者報酬)が減ったことによる。

雇用者報酬は96年度524万円をピークとして、2007年度には474万円(90.4%)まで低下している。それにもかかわらず被保険者負担が増えているのは保険料率が上がったからである。

第二に、保険料の事業主負担が保険料率の引き上げにもかかわらず、微減していることである。これは正規就業者の減少によるものである。


ここから先は私の感想だが、

結論として言えば、歳出増加として見える社会保障関係費は、じつは保険料という形を変えた収入の減少がもたらしたものだということになる。

財政赤字という状況は収入が減り、支出が増加したために起きた現象に見えるが、じつは大部分は収入(税収および社会保険料)の減少により説明できるのである。

そして社会保険料収入の減少は、ここでもまた企業のカネの出し惜しみによってもたらされているのである。

財政の健全化のためには、当面は景気の回復・内需の拡大が何よりも必要であり、そのための財政出動を躊躇するべきではない。

しかし財政の収支構造を中長期的に見れば、その欠陥は公平な富の配分を通じてしか解決できないということである。