梅原英治さんの論文「90年代以降の日本における財政危機の要因と背景」を読んだ。ritsumeikeizai.koj.jp/koj_pdfs/59612.pdf

まず目次を紹介しよう。

1.財政危機要因の分析方法

2.90年代以降における財政危機の要因

3.歳入減少の要因

4.歳出増加の要因

5.財政危機の背景としての雇用・賃金の構造変化

前半はオーソドックスな方法で、官庁統計を基本にすえながら、この間のダイナミックな変化を解き明かしており説得力がある。第5節の後半はさすがに独自の分析も入り、御意見拝聴という感じもあるが、全体として読み応えのある論文である。

要点を紹介しながら、ところどころに感想的コメントも入れさせていただくことにする。

1.財政危機要因の分析方法

(1)財務省『日本の財政関係資料』(2010年8月)

90年代以降の日本財政の危機の“常識”は、歳入面では所得税・法人税の減収,歳出面では公共事業関係費と社会保障関係費の増加にある。

公債残高はこの間に約471兆円増加した。それは,

①歳出の増加要因で約192兆円(40.8%),

②税収等の減少要因で約169兆円(35.9%),

③平成2年度の収支差分による影響で約57兆円(12.1%),

④その他の要因(国鉄等債務継承など)で約53兆円(11.3%),

という4つの要因によって構成される。

おおまかにいえば、歳出増と税収減がほぼ対等の責任を負っていることになる。

なお、梅原氏は③、④はノイズであり、全体の1/4が訳の分からない数字になっているのは困る、正確な分析のためにはその内容を吟味しなければならないとしている。

それでは歳出増の内容はどうなっているか。

(ァ)社会保障関係費が約148兆円

(イ)公共事業関係費が約62兆円

を占める。公共事業費は近年減少とはいえ歳出増に貢献している。

歳入減は、景気の低迷や累次の減税等による税収減により約211兆円となっている。これが169兆円にとどまっているのは、この間消費税の引き上げが行われたからである。

(おそらく消費税を除く税収ということだろうが、それでも、景気の低迷という“減った”要因と、累次の減税という“減らした”要因を一緒くたにしてしまう財務省の発想のしかたは良く分からない)


ここで、簡単に計算をしてみると、

471兆円の公債残高増に対する寄与率は、

社会保障関係費が148/471=31%

公共事業関係費が62/471=13%

消費税を除く税収減が211/171=45%ということになる。

梅原氏は、「社会保障関係費」を内訳で見ると、社会保障給付費の増加よりも,社会保険料収入が増えていないことによる影響が大きいので、「高齢化の進行等」では説明かつかないと指摘している。これについては別のところで扱う。


このあと梅原氏の労作である時期別の財政赤字の表が提示される。

第一局面(92~94年)の赤字発生額はほとんど問題にならない。内容も主としてバブルの崩壊に伴う歳入減少への対処である。

第二局面(95~97年)では、バブル後不況に公共事業を軸とした財政出動が加わり、31兆円を積み増している。

第三局面(98~01年)が問題で、一般的には消費税不況といわれている時期である。財政赤字は一気に100兆円を越えて積みあがり、累積赤字の27%を占めている。歳入も大幅に減少しているが、さらに金融支援などの大型財政出動が60兆円を超えたことが最大の要因である。

第四局面(02~07年)こそは財政赤字の主犯である。累積赤字に占める割合は4割近くに達する(期間が長いせいもあるが)。引き続き大型財政出動が続くが、この間は長期の好況局面にあり、歳入の72兆円もの減少が注意されなければならない。

第五局面(08~09年)は、リーマンショック後の現在に至る局面で、不況局面への対応としてはさほど不自然なものではない。(額は決して少なくはないが)


つまりここで言いたいのは、不況対応や金融危機などの対応で大規模な財政出動が行われ、これも財政赤字の原因となっているが、収入の長期低落が持続され、これが長期に見た財政赤字の構造的な原因だということである。