収支を合わせること

就労している青年たちにも困難が襲っている。公共部門の給料は過去2年でおよそ30パーセント削減された。民間部門の給与もまた、ここ数ヵ月間にわたり縮小している。EU統計局は、ギリシャの給与所得が、今年の第1四半期だけで6.2パーセント下がったと報告している。

 ギリシア人の平均給与は、すでにユーロ圏諸国で最も低い水準にある。2009年の欧州委員会の調査によると、ギリシア人の平均年棒は28,548ユーロだった。これに対し15のメンバー国の平均は39,562ユーロだった。(ユーロ諸国平均の3/4)

しかしそれは就労者の所得でしかない。いま職を求めているギリシア人にとっては、そのような給料を受けることは、実際には考えられない。初任給の基準は、今年可決される法律によってリセットされた。

この法律は、雇用者が国家の決めた最低賃金の84パーセントで、25才以下の労働者に支払うのを許している。これが意味するのは、若者たちは就職できたとしても、月592ユーロ(約6万円)の給料からスタートすることにならざるを得ないということである。

この法律が制定された目的は、雇用者に若者たちを雇うように仕向けるためだった。しかしそのような給与水準は、ほとんどの場合、若者たちが自活する可能性を否定するものでしかない。アテネでは、たとえばスタジオアパートさえ、月300ユーロ未満の物件はめったに賃貸されない。それは若いギリシア人がどんなにがんばっても支払えるような料金ではない。

ギリシャが2001年にユーロ圏に加わったのち、大部分の商品とサービスの価格は一気に上昇した。当時のギリシャには自由競争が不足していたために、多くのセクターで価格が吊り上げられた。EURESによれば、ギリシャでは国民の収入がEU平均の82パーセントしかないのにたいし、生計費はEU平均の92パーセントである。

8月に発表されるUBS資産管理研究は、アテネは、調査対象の世界都市73ヶ所中38番目にコストの高い都市であると報告している。アムステルダムとベルリンのたったひとつ下にアテネは位置している。低い賃金の若者がそこで自活することは、ますます難しくなっている。その結果、彼らは両親のもとに戻るか、田園地方へ移るという傾向が強まっている。そこでは生計費はより安いからである。

最大の試練に直面しているのは、若い家族である。EU統計局の数字は、2人の子供を持つギリシア人夫婦が受け取る年収が、1万7千ユーロをわずかに上回る程度だと示す。これに対しEurozone平均は27,700ユーロである。そのため若者夫婦は、居室の確保と育児を両親に依存せざるを得ない。家族を持つことを延期しているカップルも増えている。

 

政治的な不満

 危機のもう一つの影響は、青年層の政治家に対する信頼のほぼ完全な喪失である。青年層のほとんどは、ギリシャの経済のnear-collapseを、政治的な統治システムの死を告げる鐘として見ている。ただしその影響はまださほど顕著ではない。(この文章は昨年9月のものであることに注意)

これまでのシステムは、1974年に軍事独裁政権の崩壊の後、ギリシア語で「Metapolitefsi」(過渡期)として知られる時代に発展したものである。

(いまやこの過渡期は、新たな時代への「あらたな過渡期」に移行しつつある)

The Metapolitefsi (translated as polity or regime change) was a period in Greek history after the fall of the Greek military junta of 1967–1974 that includes the transitional period from the fall of the dictatorship_Wikipedia

街頭抗議を乗り越えて、既存政治システムへの不認可が出現している。その最初のはっきりした徴候は、2010年11月の地方選挙に現れた。このとき選挙の棄権率が初めて50%を超えたのである。この先例のない数字は、多くの解説者によって、若いギリシア人による既存政党の思考・価値観の拒否として受け止められた。

1974年以降政権を担っていたギリシャの二大主要政党(PASOKと新民主主義党)は、危機を招いた最悪の犯罪者とみなされている。しかし、ほかの小政党は世論調査においていかなる増加も示すことができなかった。つまり不機嫌な有権者は、自分の意見を述べるための政治グループをまだ見いだしていなかったことをしめしている。

 7月の公共争点調査は、どの政党も政権を樹立させるほどの支持を得ていないことを明らかにした。新民主党は32.5パーセントで、PASOK.の26.5パーセントを上回った。共産党(KKE)は11.5パーセントを得た。さらに急進左翼連合(SYRIZA)が支持率を上げた。SYRIZAは9%を獲得し、右翼の人民正統党の7.5%を上回った。38パーセントの回答者は投票を棄権するだろうと答えた。

SYRIZAはギリシャ政治のなかでは特殊な存在である。30歳代の指導者Alexis Tsiprasは、ここ数年にわたり若年層をターゲットとしてきた。いっぽうギリシャ共産党は大学学生のあいだに強いプレゼンスを持ち続けている。しかしどちらのパーティーも、本当に若いギリシア人を納得させることができなかった。新しい、より小さいいくつかの中道派の民主同盟と左翼民主党も、同じく、若い有権者と連結することができなかった。

青年は、現在の問題に対する(原理的ではなく)現実的な解答をもとめていた。過去の問題を引きずらない清新な政治勢力の出現が求められたが、その兆候はいまだ示されていない。

 

抗議と暴動

この政治的に不確実な環境では、大衆抗議行動がより多くの突出した役割をとった。家庭でも職場でも、政治家やデモ行進への多くの非難が聞かれた。しかし、フラストレーションの最も目立つ表現は、6月から7月にかけてのアテネの国会前のシンタグマ広場における連日の集会であり、あるいはテッサロニキで開かれる集会であった。

その頂点で、「Aganaktizmenoi」またはIndignantsとよばれる集会は10万人の人々を集めた。しかし参加者はいつもそれほど多かったわけではない。そんなとき彼らは、ギリシャの経済・政治問題について、公共の議論をよびかけ、議論のためのたたき台を準備した。

若いギリシア人は、抗議と討論に大挙して参加していた。パブリック・イシュウの調査によれば、25才以下の若者の59パーセントが抗議に参加した。また25才以下の若者の 70パーセントが、抗議は「非常に重要な意義を持つ政治的なイベント」であると感じていた。それに対し、他の年齢層はそれほどの熱心な反応を示してはいない。

英国新聞ガーディアンの経済学リーダー記者Aditya Chakraborttyは抗議について書いた。

「アテネのシンタグマ広場において、そして、国中で、この夏のデモ行進の特徴は、若者たちの比率の高さだった。高い学歴と、低い就業率、そして急進化した集団、それが青年という階層の特徴だ。尊厳ある将来を騙し取られたという感覚が彼らを支配している。仕事の喪失に直面している公共部門労働者と、年金と給料の低下に苦しむ人々が彼らと手を結んだ。そこにきわめて興味ある政治勢力が形成されつつある」

ギリシャの将来を決定する重要な要因のうちの1つは、この若い世代が政治的に自分の意見を述べるためにいかなる方法をとるかということだ。

この夏の抗議、若者たちを引きつけた 2つの中核テーマがある。ひとつは現在の政治家と政党に対する拒絶であり、もうひとつは緊縮処置への反対である。その緊縮措置は、ユーロ圏国と国際通貨基金(IMF)からの財政的援助一括法案とセットになっていた。(それを体現したのが「怒れる者運動」である)

「怒れる者運動」は、彼らがこの二つへの怒りにおいてギリシア青年の共感を獲得することが出来た。すなわち、不正で無責任な政治家、低賃金、重税、そしてますます募る不安への怒りである。しかしその運動は、どうなったら良いのだろうかと考えてみることにはあまり成功しなかった。だから「怒れる者運動」は抗議行動から政治行動へと移ることができなかった。

ひとつの危険がある。もしも若者たちが彼らの不満と不安について、その政治的なはけ口を見いださなければ、抗議は彼らのデフォルト反応(ぷっつん)になる。これは、アテネとThessalonikiの通りで、ますます緊張した空気をつくるだろう。

その非常に危険な例が6月29日に発生した。その日、議会を通過しようとしていた中期財政計画に対する大規模な抗議行動が、暴徒と警察の間のゲバルト戦に陥ったのである。

基本的に平和的だった抗議行動が壊された。警察の見積りによれば、およそ200人の人々が機動隊と闘かおうとしたためだ。これら過激派の暴力は、警察側の反応によっていっそう悪化した。警察は催涙ガスを発射し、攻撃的な戦術を広範囲に用いた。多くの無実の抗議者がその場で逮捕された。

これらの出来事は、アムネスティ・インターナショナルの公式の不満を呼び起こし、アテネ検察の調査をもたらした。より重要なことは、彼らが多くの若者が国家に抱いていた信頼の最後の絆を破ったことだ。

6月29日の衝突事件の後、ソーシャル・ネットワーク・サイトに寄せられたコメントを見れば、若い世代の感覚は明白だった。警察の厳しい態度は、若者の問題を省みることなく、彼らを政治過程から排除しようとする国家・政府の姿勢の現われだとされた。

若者たちの圧倒的大多数は、6月29日のような抗議行動で「暴徒」(衝突することを求めている少数精鋭グループ)とは行動を共にしないだろう。しかし彼らの不満が放置されれば、それだけ、彼らが当局によって不公平に扱われているという思いは膨らんでいくだろう。そしてギリシアの街路の空気は、より敵対的で危険になるだろう。