日本の証券アナリストが迷走し始めた。

ギリシャ、スペイン危機、円高、株安についてまったく説得力のある見通しが出せなくなっている。
6月1日のロイターWEB版に掲載された、熊野英生(第一生命経済研究所 首席エコノミスト)の解説などがその象徴だ。

1 フランス大統領選挙を機に潮目は変わった。
2 ギリシャは緊縮策では立ち直れない。ユーロ離脱はさらに深刻な危機をもたらす。
3 スペインまで状況は進んだ。これまで嫌っていた政策=景気刺激と投機資本規制、ユーロ共同債をやるしかない。
4 本質は円高ではなくドル安だ。米連銀の垂れ流しをストップさせない限り解決の見通しはない。

以上のポイントをおさえないかぎり、情勢評価はできない。

これが私の見方だが、それから見ると熊野さんはまったく勘所を押さえていない。

多数のギリシャ国民が、「ユーロ圏には残りたいが、緊縮財政はNO」という勝手な主張に票を入れれば、緊縮財政はNO→金融支援の打ち切り→ユーロ離脱という奈落の底に転落していく。

というのが最初の論点。これはメルケルが1ヶ月前まで主張していたことと同じだ。ドイツの財務相は「ギリシャを切る」とまで言った。
ギリシャの主張は勝手ではない。それはスペインを見れば分かる。ギリシャはこれ以上緊縮政策を進められないし、ギリシャを切ればスペインがつぶれる。

「緊縮ノー、ユーロ離脱ノー」の路線を貫く以外の道はないのである。なぜなら、1年前に恐れていたユーロ圏諸国連合体投機資本の仕手戦がすでに始まってしまったからである。

投機資本のバックにいるのは、有り余るドルだし、ジャブジャブのドル漬け政策を続けるバーナンキだ。

金融市場では、ギリシャがユーロを離脱したときに巻き起こるダメージを警戒して、投資マネーは「質への逃避」を起こしている。

そうじゃないのだ。ヘッヂ市場に進出した投機資本は、ギリシャとユーロに対して逆張りをかけているのだ。格付けを下げて、スプレッドを広げて、保険を吊り上げて、ギリシャ国債とスペイン・イタリア国債のカラ売りを仕掛けているのだ。(それにさらに逆張りをかけたロンドン鯨はあっさりと敗れた)

ギリシャ国民が支援を食い物にする怠け者で、ヘッジ・ファンドが善人みたいな言い方をいつまで続けるつもりなのだろう。円高だってユーロ危機をもたらしたファンド系の操作の結果に過ぎないのだし、日本も被害者なんだということがどうして理解できないのだろう。

円高は、かなり極端な水準まで進んでいて、劇的に動くとは考えにくい。75―78円のレンジで円高が進むにしても、一足飛びに円高方向に向かうのではなく、揉み合いながら居所を確認していくことになろう。

…などと分かったようなことをいうが、円の水準は日米金利差などというそんなもので決まるわけではない。
ファンド筋としても乾坤一擲の大勝負をかけるわけで、ユーロ圏がどういう対応するのかでまったく局面は変わってくる。
ヘッジ市場ではさまざまな指標が用いられるが、この際は国債のスプレッド幅が基本だ。これは為替相場と密接に絡み合うのだが、本質的には別物である。なぜなら、国債利率を市場の介入を許さないサンクチュアリ化すれば(緊急避難的にか、原則的にかは別として)、その瞬間にこの勝負は終わってしまうからだ。

たぶん、そういう選択はこの1年以内にユーロ圏で下されるだろう。

ギリシャをユーロ圏から切り離すレジームチェンジでは、…ドイツ国債や他の欧州諸国の信用力が、一転して低下する。…ドイツ国債の信用が低下すれば、「質への逃避」の流れは、さらなる円買いに向かうことになる。

ようするに熊野さんは量的違いと質的違いがわかっていないのだ。ドイツ国債の信用が低下すれば、世の中終わりなのだ。

世の中、アメリカ以外のすべての国家を含めて、ファンドにかなう者などなくなってしまうのだ。

財政政策が機動性を失い、金融政策の余地も少ないが、中央銀行総裁(ドラギ)への信認が残っていることは僅かながらの希望である。

つまりは神頼みということだ。

熊野さん、しばらくはものを書いたりしゃべったりするのをやめたほうがいい。支離滅裂だ。