B)投機資本による撹乱

ロンドンのクジラ

JPモルガン銀行が過去1カ月半で20億ドルの損失を計上したと発表。最終清算後には40億ドルに達するとの情報もある。「ロンドンのクジラ」と呼ばれる投機ファンドが、ギリシャのクレジット・デフォルト・スワップで失敗したことが原因とされる。

巨額の損失を出した経過が具体的にされていないので、事件の全貌は依然として闇のなかである。

なかでもとくに深刻なのは、ギリシャ国債に手をつけて多額の損失を生んだというウワサだ。元々、ギリシャ国債にからむCDSの主要販売機関はゴールドマン・サックスとモルガンスタンレーだった。ギリシャ債務危機に火をつけたのも、ガソリンをかけたのもアメリカのメジャー金融機関ということになる。これは最大級のスキャンダルとなる可能性がある。

その結果が「米国トップ0.1%の超富裕層が約46兆ドルの富を抱えている」という結果になっているのだ。

EU圏域では、国境を越えた課税逃れが年間25兆円となっている。このため投機の規制、市場の透明性の確保、実体経済の保護が迫られている。

最近では原油など原材料の価格を組み込んだ金融商品(上場投資信託:ETF)などが出回っており、国際決済銀行(BIS)では実勢価格との乖離傾向が強まっていることに警鐘を鳴らしている。

あの竹中平蔵は、経済財政・金融相だった当時、「上場投資信託は絶対もうかる」と発言し、後に謝罪した。

ヘッジファンドとは

ヘッジファンドというのは元々は保険の代理店みたいなもので、貸し倒れになったときに備える保険を扱っていた。ところがこの保険そのものに値がついて売買されるようになったから話がややこしくなる。

いわば企業の不人気投票みたいなもので、不人気なほどその保険の値は上がることになる。

商品が直接売買される商品市場、会社の信用が売買される株式市場についで、リスクが売買されるヘッジの市場が登場するようになった。さらに通貨の変動相場制移行に伴い為替市場も巨大化し、これにもヘッジ市場が関与するようになった。

ところが今回のロンドンクジラでも分かったが、この市場は非常に閉鎖的で謎めいている。例えて言えば鉄火場みたいなもので、とても堅気の人が手を出すようなマーケットではない。

しかもヘッジという性格上、一般的には禁じられているカラ売りに近い効果を示すので、その肥大化は一般市場に対して撹乱的な要素が強い。したがって規制の対象とすべきである。

巨大銀行の直接支配へ

10年ほど前までこの世界は、勝負師の世界だった。しかしそこに巨大な利益の源があることに気づいた巨大金融機関がなだれを打って参入した。ソロスは早々に足を洗い、今では善人面して遊んでいる。

最初は証券会社、さらにJPモルガンのような堅気の商業銀行まで加わるようになった。

アメリカでは銀行が直接自分の金を証券投資することは禁じられている。しかしヘッジというのは、そもそも貸し倒れ保険みたいなものだから、「これは投資ではありません。安全対策費です」といいぬけることができる。

オバマ政権が打ち出した銀行の投機資本への投資禁止策は、計画の立案者の名をとり、ボルカー・ルールと呼ばれている。目下議会で審議中だが、法案反対の先頭に立っていたのがJPモルガンの社長だった。

彼の反対の理由はこういうことだ。

たしかに以前は指摘されるような傾向もあったが、リーマンショック後は各金融機関とも襟を正し、やばい商売には出を出さなくなったので、このような法案は不要だ。ヘッジも、貸し倒れ対策上必要な範囲にとどめている。

それがウソだったことがばれてしまったわけだ。この事件はボルカールールの成立に手を貸す結果となった。

今日の国際的な経済危機、金融危機はその根源を辿れば国際投機資本に行き着く。国際投機資本への有効な規制こそが、経済の再活性化と安定化のために避けて通れない課題となっている。

そういう点で、今回のロンドンクジラは世界の経済をルールあるものに再建するための救世主だったのかもしれない。

 

このなかでイギリスの金融資本の荒業が報道された。さすがはサッチャリズムの本家、やることが半端ではない。

①欧州最大手のHSBCが全従業員の1割に当たる3万人を解雇した。このリストラで20億ユーロが浮いた。ロイズTSBも従業員の14%を解雇した。欧州各国の金融機関の人員削減を合計すると6万人を超える規模となっている。

②HSBCの上半期利益は前年同期から16億増えて62億ユーロとなった。HSBCがリストラ計画を発表した日、株価は4.5%上昇した。

③ロンドン金融街で昨年度158億ユーロが重役+トレーダーに支払われた。これはリーマンショック直前の水準と比べ23億ユーロの増加に当たる。

 

これに対抗して金融取引税導入の動きが本格化してる。欧州議会が11年3月に金融取引税の導入を求める決議を採択した。欧州連合の試算によると、

1.域内27カ国の金融機関がかかわる株式と債券の取引、デリバティブ(金融派生商品)に限定して徴税する。
2.株式と債券には一回の取引ごとに0.1%、デリバティブには0.01%を課税する

という条件での見積りの結果、810億ユーロになる。

これに続き、フランス下院でも同様の決議が採択された。
その内容は
①すべての金融取引に0.05%を課税する。
②すべての株式、債券、金融派生商品を課税対象とする。外為取引も課税する。
とのことで、これによりEUレベルで2兆円の税収が見込まれるとしている。