Ⅲ.ユーロ危機

A)ユーロ経済圏の矛盾

リーマンショックは金融危機だった。金融危機から実体経済の崩壊が起きた。その回復過程で大量のドルが発行され、国債・為替相場の動揺が起きた。金融危機は膨れ上がった信用と投機資本の横行に原因があるが、その根底には長年にわたる貿易不均衡と、それをドルの発行でしのぐという構造がある。

サブプライムローン問題はかなり分かりにくいので少し解説する。


サブプライム: サブプライムとは銀行のつけた呼称で、収入が少なく返済能力の低い階層の人々のこと。

サブプライム・ローン: 銀行はこの人たちに住宅ローンを貸し出した。これをサブプライムローンという。当然、貸し倒れリスクが高い分だけ利息も高くなる。

投資銀行の犯罪: 投資銀行は住宅ローンの債権を証券化し、「債務担保証券」(CDO)という紛らわしい名前で売り出した。このような"金融商品”はジャンク債(劣後債)と呼ばれ、普通は素人は手を出さないものである。

格付け会社の犯罪: しかし、投資銀行はこれを隠して優良債に紛れ込ませ、"利回りの良い優良債”として売り出した。一種の金融詐欺である。そして大手格付け会社はそれと知りつつ"毒入り債”に高格付けを与えた。これも一種の金融詐欺である。

その結果、世界中の投資家がこれを優良債として売買した。

しかしアメリカの住宅市場が低迷するとサブプライム層は次々と住宅を手放した。アメリカでは住宅を手放せば、住宅ローンは解消されるので、膨大な貸し倒れが出現した。

サブプライム・ローンを購入した投資家は膨大な損金を計上し、連鎖倒産することになった。

しかし投資銀行(リーマン・ブラザース以外)は政府資金の投入を受け、命をつないだ。格付け会社には何のお咎めもなかった。信用したほうが悪いのである。

米国政府は銀行を救済するためにドルの大量発行を行った。それは国債の発行と連銀による買い取り(QE2)を通して行われたが、それは膨大な債務として積み上がった。

アメリカ以外の国では、財務内容の悪化は国債の格付け低下と国債利回り上昇をもたらした。資金確保のためには外貨建て国債を発行するほかないので、対外債務の増加となり、債務危機を招いた。

 

今回のギリシャ危機はユーロという通貨の危機だが、本質的にはリーマンショックの波及効果である。

ギリシャはこのまま行けば“アルゼンチン”だ。しかし母体がアメリ カ・ドルとユーロでは格が違う。ギリシャのアルゼンチン化は即、EU圏内大銀行の倒産、ユーロシステムの崩壊につながる。

ユーロ危機で銀行は2千億ユーロの国債関連損失を計上することになる。さらに危機国との取引に伴う損失を含めれば3千億ユーロに達する可能性がある。

IMFは危機回避のためには資本増強しかない。自力調達ができなければ公的資金の注入を、と訴えている。ことの本質はギリシャ支援ではなく、銀行と投機資本への支援 なのだ。間違いないのは、ギリシャの民衆は決して救われないということだ。


国債の格付けが下がると、国債のリスクが高まり、リスクが高まれば利率は上がります。欧州の銀行は国債を購入するというかたちで、 それらの国に貸し込んでいましたが、利率が上がれば、額面に対する実質価格は割り引かれることになります。この差額が銀行にとっては損失処理の対象となり ます。

 構造的危機は先送りされただけで解決したわけではない。マーストリヒト体制はドイツにだけうまい汁を吸わせる仕掛けになっている。貸すときには国境なし、 儲けるときも国境なし、返すときだけ国境ありというのは、弁つきピストンと同じ原理である。一見金も商品も往復運動しているように見えるが、実際の流れは 一方向でしかない。

ユーロ圏の経済・金融・財政再建のためには、スティグリッツの11年8月の発言が非常に参考になる。

1.事態の解決法は公平な経済成長を実現することだ。需要を喚起し、高い成長を実現し、より良い経済環境を作ることで赤字を減らすことだ。

2.EUは公平な経済成長を回復するためには連帯基金「ユーロ共同債」を創設すべきだ。当面は諸国家をまたがる債務再構築だ。

3.現行の救済策は、“多額の資金を貸し込んだ欧州諸国の銀行の保護”にすぎない。国際決済銀行(BIS)規制は何の役にも立たず、むしろ資金の退蔵を進めるだけである。

4.財政の長期的健全化のために必要なのは、課税構造の再構築である。