“ロンドンのクジラ”とはなんともキャッチイなネーミングだ。 「その素顔は謎に包まれ、報道も過熱気味だ」とされているが、さもありなんである。

インターネットではロイターと産経新聞の記事が読める。以下はその要旨。


このクリーチュアは、JPモルガンのダイモンCEOがヘッジ戦略の失敗に“ロンドンのクジラ”が関与していたと認めたことから、突然浮かび上がってきた。

“クジラ”の本名はブルーノ・イクシル、フランス人で、1991年に工学・技術系教育機関のエコール・サントラル・パリを卒業。ロンドンを拠点に「最高投資戦略室」(チーフ・インベストメント・オフィス)のクレジットデスクを率いていた。年齢も不詳という謎の人物だ。

ジェイミー・ダイモンCEOは会見で、「(公正な取引を掲げる)私の原則に反するもので、非を認めるしかない」とうなだれた。ただ、イクシル氏の元同僚によると、このチームの業務内容についてはJPモルガンの経営トップが把握しているという(ロイター)。JPモルガンのチーフ・インベストメント・オフィスに相当するリスク・ヘッジ部門は、他の銀行にも存在するといわれる。

ダイモンは、銀行の投機的取引を制限する新金融規制案(ボルカー・ルール)導入に対する反対派の急先鋒だった。リーマン危機でも損失を出さなかったことが説得力を持たせた。

その甲斐あって規制導入は2年先送りされた。その矢先の出来事だけに、ダイモン自ら語るように「きまりが悪い失態」となった。これから問題なのは、JPモルガンの損ではなく、「ボルカー・ルール」への影響ですね。

クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の派手な取引で毎年数億ドルを稼ぎ出す。市場を大波で揺らすような売買からついた異名が「ロンドンのクジラ」だ。損失発覚も、荒っぽい手口に眉をひそめる業界関係者がメディアに告発したのがきっかけだった。

この記事(ウォールストリートジャーナル)は残念ながら有料で読めない。

各種ブログを総合すると、「JPモルガン・チェースのCIO部門でCDSのポジションを1000億ドル保有しているクジラと呼ばれているトレーダーが市場を歪めている」といううわさ話程度の報道だったようだ。


ところでそもそも「クレジット・デフォルト・スワップ」(CDS)なるものが分からない。電気クラゲさんのブログでは以下のように書かれている。

クレジット・デフォルト・スワップってのは、信用取引した債権がデフォルトしたときに元本を保証してもらえる商品。 ただし、定期的に一定額の支払いが必要。

①信用取引のリスクを抑えることができる
②債権自体は所有し続けることができる

まあ、早い話デフォルト保険ですね。どうしてそれが取引の対象になるかというと、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)を使ったいわゆる「合成ヘッジ」を行うんだそうです。結局良く分からない。

自分なりに頭を絞ると、この保険は会社がやばくなれば価値を増すことになる。そうすればより高額で売却できることになる、ということで空売りと同じ効果が期待されることになります。しかし誰がこのような商品を発売しているのだろうか。本当に払えるのだろうか。


次はブルームバーグの記事

5月10日、JPモルガン・チェースが約20億ドルの損失が出たと発表。「クレジット証券のポジションのリスクが予想以上に高い」ことから判明したものだとされる(何のことやら分からぬが…)

同日、ダイモンCEOは「トレーディングの損失は自ら招いたもので甚だしい失敗だった」と述べる。ウォール街筋からは、「JPモルガンがこのような事態になれば、他行にも疑念を招く」との反響が広がる。


別のブログ実践!アルゴリズム・トレード!によると、ダイモンはこうも述べているようだ。

「ポートフォリオは当初の予想よりもリスクが大きく、変動が激しくてヘッジ効果が小さいことが分かった」と説明し、「われわれに責任がある。今回起きたことは、我々が目指していたビジネスのやり方ではなく、経営手法に関する基準と原則に違反している」と述べています。

往々にして、言い訳というのは分かりにくい表現になるものだが、それにしても良く分からない。分かるのは「我々に責任がある」という部分だけだが、どう責任があるのか、なぜ責任があるのか、はっきりしない。

ブログ主は以下のように解説しているが、これもさっぱり分からない。

今回の取引はシンセティック・クレジット証券関連で発生しました。CIO部門では、金利や為替変動など銀行業務に固有のリスクヘッジが中心的な業務ですが、このヘッジ取引と自己勘定取引の区別が非常に難しい部門となっており、さらに同行では市場規模と比較して非常に大きなポジションを持っていました。

たぶん、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を扱うロンドンのCIO(チーフ・インベストメント・オフィス)は、ダイモンCEO(最高執行責任者)の指示の下に派手なシテ戦を繰り広げていたということだろう。

ブログ主は次のようにまとめているが、産経新聞と同じと考えてよいだろう。

今回の損失は金額的なものもそうですが、それ以上に施行が予定されているボルガールールに対し、賛成派議員への材料となりますので、今後の投資銀行業のビジネスへ影響は大きなものとなりそうです。

ここまでが第一報。

これからはその後の動きを見てみる。

まず13日のロイターはCIOのCIOが辞任というニュース。「最高投資戦略室」(CIO)を率いるアイナ・ドルー最高投資責任者(CIO)が辞表を提出したというものだ。

辞任の理由は、「債券の信用力に関連するデリバティブのポートフォリオでリスク管理に失敗。ポートフォリオ運用に使ったヘッジ戦略が複雑、かつ大規模になりすぎ、ポジション解消が困難になった」ためとされている。(これもさっぱり分かりませんなぁ)

ダイモン最高経営責任者(CEO)はNBCのインタビュー番組に出演。損失は同行にとって「致命的なものではない」と強調した。20億ドルの損失が発生した経緯については説明しなかった。


ハーベスライフ香港は少し詳しい解説を出している。がんばれば素人にも多少は分かりそうだ。

企業の債券指数に投資していたロンドンのJPモルガン・チームは、そのベッドがあまりに大き いことから「ロンドンのクジラ」と言われていた。

クジラは、 JPモルガンの融資先の倒産に備えてヘッジ(保険)をかけるために、債券価格が下落する方向にベッドした。ほかのヘッジファンドはクジラとと逆方向にベッドした。

この取引はいったい投資なのかリスクヘッジなのか、その線引きがとても難しい。企業への融資が焦げ付いた場合に、「企業群の債券価格に連動する指数に対して、指数が下がることによって利益を得る手法」はそのヘッジとなりうる。借金を返せなかった分をデリバティブ取引で取り戻すという感覚だ。

しかし現実のヘッジはそうはなっていない。

第一に、資金は債券価格そのものの上下に対して投じられているわけではない。「債券価格に連動する指数」(デリバティブ)というバーチャルな値の動きに投じられているのである。

指数は作ろうと思えばいくつでも作れる。そしてその指数の動きに連動するデリバティブ取引も作れる。そういったデリバティブ取引は公開されていないので、今その金融商品の価格がいくらになっているかもわからない。

第二に、融資先にかけるヘッジ資金であれば、それは投資ではなく一種の「経費」である。

しかし果たして資金の投下先はすべてJPモルガンが融資をしていた企業なのか、もしそうでないとすれば、それは「経費」ではなく投資ということになる。これは自己勘定による投資を禁じるボルカー・ルールに抵触することになる。

アメリカとロンドンの金融庁はこの事件に注目している。ボルカー・ルールに反しているかどうかは別として、リスクの適切な管理が行われていたかどうかが検証されることになるだろう。


オバマ大統領はABCの番組「ザ・ビュー」に出演し、JPモルガンの損失問題について言及した。

オバマは、「JPモルガンは、資産運用に最も優れた米銀の1行で、トップのジェイミー・ダイモン氏も非常に有能なバンカーだが、それでも、彼らは20億ドル以上の損失を出した」とたっぷり皮肉を利かせた。そして「ウォール街改革が重要な理由がまさに示された」と語った。


ここまで、ニュースの大きさにもかかわらず、報道はきわめて少なかった。ロイターの配信と、それにWSJ記事をくっつけた産経の記事がほとんど唯一の情報源だった。

16日になってようやく毎日新聞が特派員報告を載せている。しかし独自取材に基づく新情報はない。朝日・読売の特派員はまだ寝ぼけているようだ。

「欠陥のある戦略と実行で、監視もお粗末だった」と過ちを率直に認めた。

と書いているが、内容的には決して率直ではない。何も明らかにしていないのである。

司法省と連邦捜査局(FBI)が合同捜査を始めたほか、米証券取引委員会(SEC)も調査に乗り出した。

とあるが、決して本線での捜査ではない。

巨額の損失を出した経過が具体的にされていないので、事件の全貌は依然として闇のなかである。

なかでもとくに深刻なのは、ギリシャ国債に手をつけて多額の損失を生んだというウワサだ。これは最大級のスキャンダルとなる可能性がある。

英語の文献に着手しようかどうか迷っている。