率直に言って、南アジアと中東の平和にとってパキスタン軍部の“膨張主義”は重大な障害となってきた。
たしかにイスラム教徒は旧インドにおける被抑圧階層であり、その被害者意識も理解できないではない。
しかしそれが裏返しの“ミニ大国主義”として表現されるのを合理化することは出来ない。結局のところそれが大国の介入を招き、パキスタンの経済発展の遅れをもたらしたのも明らかである。

そのパキスタン軍部に、このところ転換への兆しが見え始めた。まだはっきりとした路線として打ち出されたわけではないが、ふたつの報道にそれが垣間見える。

ひとつはカシミールの山岳地帯での雪崩で駐屯部隊が生き埋めになった事件である。現場を視察に訪れたキアニ参謀総長は、「印パ両軍がこの地域から部隊を撤退させるべきだ。領有権問題は両国のリーダーシップにかかっている」と語った。
これは最近進んでいる首脳間対話を後押しするものだが、軍トップがこれほどはっきりと意思表明したことの意義は大きい。
数年前のムンバイでの決死隊による武装作戦は、印パ政府の宥和を嫌ったパキスタン軍部の差し金であったことが明らかになっている。
この記者会見ではキアニ参謀総長はさらに踏み込んだ発言を行っている。
「人々の福祉に努力を集中させるためには、両国の平和的共存が重要だ。国防支出は減らすほうがいい」


しかしこのことが分かるまでに、軍部はどれだけ国民に負担を強いたことだろうか。かたやインドがBRICSの一員として経済発展を遂げ、国際社会に重みを増しているのに引き換え、パキスタンはいまや最貧国の仲間入り寸前の有様だ。

インドと対抗するために中国に近寄り、その次はアメリカに摺りより、アフガンを影響下に入れようとし、いまは米軍とタリバンの板ばさみにあって身動きが取れなくなっている。



もう一つの報道は、インドの新型長距離ミサイル実験に関する政府発言。

19日、パキスタン外務省報道官は、「インドは実験前に連絡をしてきた」と評価し、特段問題視しない考えを示しました。
インドと過去に三度戦火を交えたパキスタンとしては異例の抑制した反応となりました。

これは軍の了解があってのことだろうが、それにしても信じられないほどの“抑制”振りである。

もちろん、タリバンとの関係というもう一つの大問題を抱えているパキスタン軍部だが、そのうちさらに大きな変更が登場してくるかもしれない。
期待を持って見守って行きたい。