資本論草稿集② 501ページ

マルクスは、ロバート・オウエンの講演録から長々と引用している。「別の機会に引用することにしよう」と書いているから、よほど気に入ったらしい。オウエンの言葉である「科学力」は地の文でも用いられている。

あえていえば、「要綱」の大工業に関するいくつかの有名なテーゼは、このオウエンの文章から受けた感銘がインスパイアーしているのではないだろうか。


A 大工業は人類史上未曾有の不平等をもたらした

家内工業の時代、親方も職人も同じ食堂で食べ、一緒に暮らしていました。職人も適当な年季を積めば親方になる見込みがありました。彼らのあいだには平等の精神と感情とが支配していました。

ところが製造業で科学力が用いられるようになると、状況は変化しました。現在では製造業で成功しようとすれば、大規模にまた大資本でなければなりません。繊維産業では特にそうです。

これまでの生産者間の平等は、親方と労働者のあいたの人類史上未曾有の、最大の不平等に席を譲ることになるでしょう。

大資本家は彼の奴隷を、間接的とはいえ、支配できるようになりました。生き死にまでも思いのままにする尊大な主人の地位を獲得したのです。

B 資本家は富だけでなく権力も手に入れたが、知性を失った

彼がこのような権力を得ているのは、同じ利害で結ばれた資本家たちと結合しているからです。

大資本家はいまや、溢れるほどの富を手にしていますが、この富の正しい使い方を知りません。彼の富は彼に権力を与えました。しかし彼の富と権力は、彼の知性をくらませています。

彼が無慈悲に抑圧を行っているときでさえも、彼は善行を施しているのだと信じています。

C 使用人は事実上の奴隷となった

労働者の大多数からは、健康、家庭、余暇、健全な遊びが奪われました。体力は消耗し、不節制になり、考えたり反省したりすることが不得手になっています。彼らの楽しみは最悪の種類のものです。これらの変化について個人を責めることはできません。

D ここは小見出しのつけようがない(マルクスが二重丸をつけた部分

しかしながら、それは規則正しい自然の秩序に従って到来したものなのです。それは現在進行中の、偉大な、そして重要な社会革命への準備的かつ必然的な段階なのです。

E 来たるべき社会とは

社会の編制が大いに改善され、合理的なものとなること。(生産と労働が)新たな結合を成し遂げること。万人に人格の向上と発達を保証すること。

万人が消費しうるよりも多くの富が毎年生産されるということ。富の中身も、従来より高級な種類のものとなること。

こういうことを考えるようになったのも、大規模な製造業システムが出来上がったからこそなのです。

E 人間はどう変わっていくか

ほかならぬ、この新たな製造業システムが人間の諸能力を拡大させます。このシステムにより、人間はこれまでとは別の原理とか実践とかを理解し、これを受け入れるようになります。

その結果、“世界にまだ知られるに至っていない、物事のもっとも有益な変化”がこれから起きるだろう、ということをを理解するようになります。そして、その変化を引き起こすように心がけるようになります。

つまりこの新たな製造業システムこそが、これとは別の、しかもより高度の社会類型の必然性を作り出しているのです。