1997年不況については、ネットで探した範囲では、山家悠紀夫『景気とは何だろうか』がもっとも理論の筋が通っていて、説得力がある。このページはそもそも岩波新書, 2 0 0 5年の抜き書きのようだ。

もう一つ、消費税を擁護する立場の文章もある。これはヨタ文章なのだが、書いた人間が慶應義塾大学 商学部教授 権丈善一 という偉そうな人なので、まずはその文章を鏡としながら論点の所在を探っておきたい。

勿凝学問174 「1997年不況の原因は、本当に消費税率引き上げなのか?」という表題で、「当時の公共事業費削減やアジア経済危機も思い出してあげないと、消費税が可哀想だ」というリードがついている。

これだけ読む限り、いわば経済専門家による消費税犯人論の真っ向からの否定だ。書き出しはのっけからけんか腰である。

1997年4月に消費税率は2ポイントあがった。そしてその年は深刻な不況に見舞われた。だから、深刻な不況は消費税のせいであるというのであれば、あの年8月のダイアナ妃の事故死も消費税のせいなのかと言いたくもなる。そして消費税率引き上げ前1月の松田聖子・神田正輝の離婚は、あれは駆け込み離婚なのか?

ついで97年不況の見解をめぐる対立が“財政構造改革派と景気対策優先派”の対立 にあるとの説を唱える。

これは権丈教授の独特の見解であり、そもそもそのような対立があるのかさえ判然としない。

財政構造改革も景気対策もどちらも大事なことである。そのことに異論を唱える人はいない。同時に、財政構造改革が究極的に景気に左右されることも当然であり、景気対策が優先されるのも当たり前の話である。少なくとも財政構造改革に執着するあまり、97年不況のような事態を再現することは断じて許されない。これはすべての人に共通する認識ではないだろうか。

権丈教授はこのような共通認識を踏まえているのだろうかという疑問を抱かざるを得ない。

もうひとつ、“見解が分岐するトピックとして、橋本内閣における財政再建努力をどのように評価するかという問題がある ”とも書いている。

これもおかしな話で、どのように評価するかと問われれば、すべての人が「失敗だった」と評価するだろう。問題は「なぜ、どこが、どのようにして失敗したのか」という分析であり、二度とこのような失敗を繰り返さないための教訓を汲み取ることである。

ここでも、権丈教授はこの共通認識を踏まえているのだろうかという疑問がわいてくる。

(ウィキペディアにもこう書かれている。
消費税引き上げ論者、ないし財政再建論者からも以下の意見が出されている。
①時期として適当でなかった。96年、景気はバブル崩壊から立ち直りつつあったが、力強さは見られなかった。②額が適当でなかった。③対処が遅れた。)

教授は97年不況が“社会実験の意味を持っている”と書いているがまさしくその通りだ。だから我々は貴重なこの経験から多くのことを学び取る必要があるのだ。その後の「経済白書」も、その内容は別として、私と同じ観点からこの問題にアプローチしている。

文章の性格からしてやむをえないとは同情するが、教授は97年不況の原因を以下のように簡略化している。

①1993年末から景気が回復してきた日本では、1996 年に実質年率3.5%の経済成長を達成した。

②1997 年5 月からの景気後退は、1997 年4 月の消費税率引上げ前後の駆け込み消費と買い控え現象だ。

③これに1997 年7 月以降のアジア経済危機を契機とした大幅な株価の下落などが、橋本財政構造改革の時期と重なってしまっただけだ。

上記の説を裏付ける根拠として、教授は一つのグラフ(転載せず)を持ち出し、以下のように説明する。

 1996 年の前半にピークを迎えた家計消費支出、政府消費、公的資本形成は1996 年中に低下傾向をみせはじめる。公的資本形成の減少とほぼパラレルに動いている

 1997年4月の消費税率2ポイント・アップは、景気の低下傾向そのものを加速するような影響を与えてはいない

と、驚くべきことに消費税主犯説の否定ではなく、消費税無罪論まで飛躍して行くのである。

そのために教授は、四半期集計のグラフの“消費税率の引上げ前後の消費の増減をならしてみる”という驚くべき手法を用いる。そして“公的資本形成の減少とほぼパラレル”であることを“発見する”のである。

公的資本は過少消費に対する対応策として出てくるのであり、基本的には民間消費とは逆相関の関係にある。民間の資本形成とあわせて見て行かなければならないし、本来パラレルになるはずのないものだ。

また4兆円の公共投資減少が100%効いて、9兆円の国民負担増が0%だという話も無茶苦茶だ。


たしかに97年不況は「二番底不況」と呼ばれ、バブルのツケの清算としての性格も持っているのだが、ここまで事態を一面化するのは異様としか言いようがない。

例えばここでは民間資本形成が意図的に除外されているのであるが、まさに政府消費による下支えで民間資本形成が持ち直し、3.2%の成長を実現したからこそ、政府は公共投資の抑制に着手したのだ。

もう一つ、政府投資の減少を主犯とし、よって以って消費税を免罪するのは、論点のすり替えである。問題は97年不況が「政策不況」であったか否かである。

政府投資の減少も、消費税や社会保障改悪と同じく、財政再建至上主義にもとづく政策だったのであり、その立脚点に立てば、それらは個別の手法の違いに過ぎないからである。


たしかに、経企庁は当初国民負担増の問題を取り上げなかった。そして現下の不況を「二番底不況」として描き出そうとした。しかし後には消費税などによる消費減退を指摘するようになっている。

現在の深刻な不況の主因は、官民が金融機関の不良債権処理を先延ばしし、バブル崩壊の後遺症を悪化させたことだ。政府が、不況の主因にメスを 入れないまま、公共事業を柱とする従来型の景気刺激策を繰り返し、効果が出なかっただけでなく、財政赤字の増大も招いた

経済企画庁の1998年版「日本経済の回顧と課題」