ニュースを聞いたとき、とっさに次のことが頭に浮かんだ。

*ただの奥様ではないし、ただのポケットマネーではない可能性もある。キョーリンHD本体の不正の可能性もある

*背景に杏林製薬の買収をめぐる騒動がある。この奥様はその一方の旗頭になっている。


キョーリン製薬ホールディングス(HD)は「杏林製薬」の持ち株会社で、06年の創設。それ自体も東証1部上場会社。

被害者の女性は創業家出身で、前会長とはいうものの、花も実もある54歳のバリバリ。特別顧問としてHDの株の3%を保有する。それがどうして会長を降りたのかも一つのポイントだろう。

警視庁捜査2課が捜査に当たっているが、被害届を出したのか。捜査のきっかけは、経過を知ったJTが有印私文書偽造罪で警視庁に告発したためのようだ。逮捕の理由は「詐欺の疑い」となっているが、被害が立証されない限り詐欺は逮捕理由とはならない。

30億詐取されたと申告したのなら、「被害者」はその出所を明らかにしなければならない。そうしないと「被害者」が実は資金を流用していたのかもしれないということになる。こちらのほうがはるかに深刻である。

そもそも土地ころがしの話であり、それ自体すれすれの行為であり、場合によっては違法性を問われる可能性もある。この件猛烈にくさい。もう少し裏があるか、場合によってはオリンパス同様にキョーリン側の偽装詐欺も考えられる。

騙したほうは不動産会社役員が37歳、契約書を偽造したブローカーが74歳。どちらが主犯かは不明だが、取調べに当たっても役員以外の3人は容疑を否認しているという。さすがは詐欺師、見上げた根性だ。

物件は日本たばこ産業(JT)が保有する渋谷区神宮前の土地3190平方メートル(約1千坪)。「病院用地として80億で購入し、その後110億で転売」という筋書きだった。直接の金の出所は、奥様が代表を務める不動産会社。前会長は親族の医療法人に買い取らせようとした。しかし売却が進まなかったことから前会長側がJT側に確認し、文書の偽造が判明した。

ちょっと毛色の変わった記事がある。共同通信の配信記事で、細部に異同がある。①主犯は役員ではなくブローカーとされている。この男は「総務省OB」などと名乗っていた。また他の2人の逮捕者の実名も明らかにされている。②土地取引が架空と判明し、一部は返金されたことになっている。③女性側は09年6月に告訴している。

これは大変不思議な記事で、09年9月の告訴から逮捕に至るまで3年近くを経過していることになる。詐欺事件としての立証がかなり難しかったことを示唆している。


実は杏林製薬にはきな臭い臭いが立ち込めている。沢井製薬がキョーリンに買収を提案しているのだ。しかも昨年9月、創業家一族が、保有株を売却しない方針を決めている。その先頭に立っているのか荻原弘子氏なのだ。

弘子氏はみずから株式大量保有の変更報告書を関東財務局に提出した。「一定の期間中、保有株券等のすべてについて、売却その他の処分をしないことを合意した」というものである。彼女が創業家と関係企業の意向を取りまとめたものだ。これで株の4割は確保したというから大したものだ。彼女の権威は自分名義の3%にはとどまらず、一族の持つ40%の株の生殺与奪を握っていることになる。

大株主が買収を拒否する姿勢を明確にしたことで、沢井の提案実現は難しくなった。しかしキョーリン株の5%弱を取得した沢井製薬はまだ買収をあきらめていないようで、さらに株を買い増して子会社化すると提案している。2010/09/28 11:15 【共同通信】

杏林製薬そのもののパフォーマンスは悪くない。業績ドライバーであるキプレス(喘息治療薬)の市場シェアは上昇しており、アレルギー性鼻炎への適用拡大も実現した。ムコダイン(去痰剤)の一般薬販売実績も着実に成長している。現在20億の研究開発費を計上しているが、これが一段落すればさらに営業益の増加が見込める。要するに身売りする理由は何もない。

というのがクセモノで、オリンパスもまさにそうだった。だから詐欺で奪われた30億が、実は損失隠しの手段だった、なんてことも考えられなくはない。


と、ここまでがニュース記事の整理。しかしこれでは謎は深まるばかりである。1週間もたつのに、マスコミはまったくフォローしようとしない。ネットを探したら、下記の記事が閲覧できた。これでかなり背景が分かる。

伊藤博敏「ニュースの深層」

キョーリンHDの前会長が詐欺師にハマってしまった理由

以下要旨を引用する。

女性の名は荻原弘子さん。杏林製薬の創業者の孫で、大学を卒業後、杏林製薬に入社、監査役を長く務め、資産管理会社なども経営した。夫の郁夫氏は弘子氏と結婚し養子となり、3代目社長に就任した。その後長い別居生活の末に離婚しキョーリンを去った。

別居の果ての離婚、経営陣に名を連ねていた親族との確執など"家庭の問題"を抱えていたという。「そこに擦り寄った占い師や金融マンが投資に引き込んだ」とされる。離婚問題を抱えていた弘子氏は占い師のN(女性)と知り合い、「Nの予言に何度か救われて完全に信用するようになった」そうだ。

Nの紹介で、06年12月、山口容疑者と出会い、「JTが神宮前に持つ土地の払い下げが可能」と、吹き込まれると、従兄弟が経営する医療法人を買受人とするなど、購入準備に入った。弘子氏はスイスのプライベートバンクから80億円の融資を受け、資産管理会社のテラ・ブレインズに入金した。

07年12月に10億円を振り込み、08年3月にさらに20億円を振り込んだ。

この記事によると、主犯は74歳のブローカーのようだが、役員がただの使いっぱしりだったともいい切れない。それに占い師の手づるで最初に弘子氏と会い、土地の話を持ちかけたのは料亭の女将で、そのときすでに各種の偽造書類を提示していたとされるから、これもただの従犯ではない。まぁ、この辺はどうでもよいことだが。

もう一つ、これは日刊現代のニュース。

キョーリン製薬前会長 スゴ過ぎる財力

<23億円の遺産相続、保有株の時価総額は150億円>

昨年9月提出の「大量保有報告書」によると、彼女の資産の源泉がキョーリン製薬HD株だと分かる。個人名義のほか、自分が社長を務める不動産賃貸会社な ども含めて発行済み株式の14%超を保有。現在の時価総額で約150億円にもなる計算で、個人の配当金だけでも年間2億円の収入に上る。

自宅は約940平方メートルの土地に地下1階、地上3階建てと2階建ての2棟が立ち、資産価値は「土地と建物でザッと10億円ぐらい」といわれる。


これらのニュースを見て、「当分は事件としては発展しそうもないな」と、とりあえずは納得した。

つまり30億ドブに捨てても、蚊に刺されたくらいの痛痒しか感じない人種というのが日本にはいて、この奥様はその一人だということが分かったということである。

こういう人から所得税を取るのはきわめて難しい。この人の収入源が株の配当だとすれば、この人は個人分だけで2億の年収に対して10%、2千万しか税金を払っていないのである。遊んで暮らして10%、片や汗水流してなんだかんだと35%、やはり法人税は必要なのである。

ただ、「スイスのプライベートバンクから80億円の融資を受け」というくだりは良く分からない。そもそもプライベート・バンクなどというもの聞いたこともない