書棚の整理をしたら、というよりしかけたら、安本美典の「神武東遷」という本が出てきて、何気なく読み始めてはまった。
昨日の記事は、酒飲みながら読んでいて、寝る前に上げたもので、結構よれている。さて本日もすでにかなり回り始めているので、まともな記事になるかどうか自信はない。

安本氏がこの本を書いたのが1968年、34歳のときというからおどろく。よほど斬新だったのであろう。

いわゆる古田史学が登場するのより早い。しかもこちらのほうがまともだ。

この本の一番の味噌は、神武天皇が実在していたとすれば、おそらく西暦280年ころだということを説得力を持って主張しているところにある。

前書きというか、方法論の所が結構長くて鬱陶しいが、要するに飛鳥天平の頃の天皇の平均在位期間が平均10年ちょっとだから、それに天皇の人数をかけて逆算すれば280という数字が出てくるということだ。
それは卑弥呼から100年くらい後のことで、それから兄弟と計ってヤマト征服に出陣したということだ。

そうすると、古事記や日本書紀の記述は概ね正確で、ただ年月日がでたらめだということになる。

巻末に古事記と、日本書紀の現代語訳が付いているのはありがたい。
これを見ると、どこに何年いてそれからどこに移って、と時間経過が書きこまれているが、これはは一切無視して読めばいいということになる。

征服というのは、平和時にいる我々にとっては信じがたいほどのスピードと冷酷さで進行する。とにかく見ず知らずの土地に突っ込んでいって、逆らうものは皆殺しにして、という闘いだから、戦略などというものはない。中国人ギャング団みたいなもので、とにかく出たとこ勝負だ。

一番大事なのは勢いである。勢いがあれば現地で軍備も到達できるし、兵士も寄ってくる。これが一旦勢いが弱まれば、世の中すべて逆回転し始める。

古事記の記述ではあまりにも悠長だ。おそらく九州を発ってから長くとも半年くらいの間に片がついたと考えるべきだろう。吉備で軍勢を整えてから出陣したにしては、吉備勢が戦闘場面に登場しない。

私はコルテスやピサロの征服譚、ドレーク船長やモルガン船長らの海賊話をつい思い起こすのだが、勝利の条件はいくつかある。まず何よりも武器の圧倒的な差だ。「文明の衝突」並みの隔絶が必要だ。スペイン人にとっては鉄砲と馬、犬だったと言われるが、私は槍・刀だったのではないかと思う。とにかく鉄の刀は切らずに突くのなら一振りで10人は殺せる。

500年後のアテルイの闘いでも同じような場面が出現する。弓矢は奇襲戦には有効だが正規戦では楯に防がれる。射ち尽くせば後は逃げるしかない。

神武軍は長髄彦に奇襲戦法で攻撃され、壊滅的打撃を受けた。本当は兄貴が総司令官だったと思うが、戦死してしまう。残る兄弟のうち二人も敗走の途中に死んでしまう。結局神武しかいなくなった。

そこから再び陣列を立て直し、吉野川から山中に入り、背後から敵を衝く大作戦を敢行するのだから、相当のガッツである。こういう日本人てありなのだろうか。

神武東征記には「何故?」という所が完全に欠落している。しかしこの死に物狂いの闘いぶりが、「なぜ?」という問いに対する答えを暗示しているのではないか。

彼らにはもはや帰るところはなかった。背水の陣で戦いに臨むほかなかった。彼らは九州の権力者の名により派遣された軍ではなく、追い立てられた逃亡者の群れなのではなかったのか、そういう気がしてくる。

卑弥呼の時代に九州に大乱が起こり、それが何年続いたかは分からないが、結局大乱の当事者のいずれか一方が九州を追われ、オデッセイアの旅に出て、宇佐の連中とつるんで瀬戸内を荒らしまわる海賊になり、それが大和をやっつけようという話になったのではないか。

大和盆地の中心は昔は湖で、大和川を遡っていけばそこに出て湖畔の町を襲撃しようという事なら、海賊の作戦としては極めてありふれた話だ。
それが生駒山麓の所で土砂崩れかなんかあって、河が通れなくなってしまった。それで船を降りて陸路進もうとしたところを現地住民の待ち伏せにあって逃げ出した。
こう考えてみると、船に乗ったり降りたり、時化にあったりの経過が理解できるのである。

そう思ってみると、神武東征記はモルガン船長のニカラグア・パナマ攻略作戦と非常によく似ていることに気づく。海賊というと海の上での商船乗っ取りというイメージが強いが、実は連中、海兵隊みたいな所があって、結構陸戦に強いのである。

とにかくこの神武という男、何人殺しているか分からない。しかも殺すことに何の大義もない。「誅す」と書いてあるが、「天誅」とすべきいわれはなんらない。他人の土地に踏み入り、富と命を簒奪することにひたすら執念を燃やしている殺人鬼である。
今なら中国人ギャング団のボスみたいな人物である。
それが万世一系の皇祖皇統のてっぺんになっちゃったんだから、歴史は分からない。