ワインストック 「アラブ革命史」 から

その1 アラブ民族とは何か

アラブ民族というものは存在しない。あるのはアラブ民族主義のみである。

民族は歴史的に形成されるものであり、アラブ民族が形成される可能性は存在する。

イスラムを共通の伝統的基盤とする集合体であるが、それ以外にも、とくに欧州列強に対する抵抗をもうひとつの共通の基盤とする。

 

その2 アラブ民族主義の契機

列強が進出したころ、マグリブは部族連合体でしかなかった。列強が一方では流通・交通の発達、他方では搾取と抑圧の強化を通じ、ひとつの「民族」(ウンマ)を作り上げた。

停滞したイスラム宗教トップに対する改革運動、とくにマフディ派との関連。社会改革を志し、世俗性を追求するという点では保守的なイスラムの伝統と衝突する。

アラブ民族主義を最初に唱えたのは、キリスト教徒アラブ人アル・ヤージジーであった。1856年、レバノンのナーブルスで起きた反オスマン暴動。

イスラムだから抑圧されるのではない。アラブ人だから抑圧されるのだ、との感情

 

その3 アラブ民族主義の発展、進化

エジプトのサード・ザグルール、トルコのケマルパシャは戦闘的な政教分離主義をとなえ、イスラム保守派と対決した。

民族の概念を持ち込んだボルシェビキ革命の影響。他方では反共の立場から民族主義の鼓舞。

民族としてのアイデンティティーを確立する求心性よりも、「アラブ人よ統一せよ」という外延的なアラブ統一思想が根拠となる。


つまり、アメリカやイスラエルによる収奪、抑圧が続く限りアラブの大義は消えることはない。

また進歩と民主主義への志向が存在する限り、アラブ民族主義は消えることはない。

イスラムが規範として存在する限り、その否定的発展としてのアラブ民族主義は消えることはない。

それではいま消え去ろうとしている「アラブ民族主義」は何だったのだろう、ということになる。私たちは20年前に、同じ思いを抱いたことがある。

ソ連・東欧の社会主義が崩壊したとき、社会主義・共産主義の理想は消えたのか、そうではない。ただ原点への回帰が必要だった。

いまアラブでも同じことが問い返されることになるだろう。