スティグリッツが半ばやけっぱちな発言を行った背景は、欧州中銀(ECB)と各国中銀の強い抵抗にある。

10月12日、欧州委員会のバローゾ委員長が銀行自己資本の増強手順を示した。

銀行資産査定のやり直しを前提に、1)銀行による増資、2)当該国政府の公的資金注入、3)EFSF資金を使った注入の3段階からなるもの。

さらにバローゾは欧州安定メカニズム(ESM)の発足を前倒しする方向を示した。ついでに言ったみたいに聞こえるが、これがバローゾ発言の核心だ。そこまで踏み込まなければ展望は出せないよということである。

マーストリヒト条約は、通貨の一元的発行とその下での各国財政政策の調整をふくめていない。したがって、たしかに条約の改正なしにはESMの実現は困難だ。

しかし、ESMに準じたメカニズムを編制し発動することは、可能だし不可欠となっている。というのがバローゾの判断だろう。それはスティグリッツも同じだ。

バローゾはさらに、「条約の改正が現在の問題の“唯一の解決策だ”と指摘するのは全くの間違いだ」と指摘した。これは明らかにECBに対する当てこすりである。

「中期的」に条約改正の必要性は否定しない。「本格的なユーロ共同債」の発行にはそのような措置が必要だ。

「しかしわれわれには今の段階で下せる決定がある。今すぐにだ」

このバローゾのアジェンダ提案にたいし、欧州中銀幹部はいっせいに反発した。いやらしいのは、反対の根拠が形式論理だということだ。

反対派の中心人物はシュタルク専務理事。かれは17日に欧州議会に出席し以下のように証言した。

①ユーロ共同債では問題は解決しない。政府の資金調達方法として実現可能なものではない。むしろ財政改革へのインセンティブを弱める。

②ECBにこれ以上の方策を要請するのは中央銀行の領域を踏み越えるものであり、中銀の独立性にとって問題。。

③ユーロ圏諸国が新たな危機を防止するには形だけではない真の政治統合が必要だ。そのためには純粋な経済統合が必要だ。これはマクロ経済上の目標に関する国家主権を放棄することを意味する。

④そしてユーロ圏諸国の経済主権の一部の「移管」をもとめる。政治的な統合が進めば、ユーロ圏共同債はひょっとしたら可能かもしれない。

その前日、フランス銀行のノワイエ総裁も、ユーロ圏各国が共同債の発行を検討できるようになるためには「極めて強い統合が必要だ」と述べた。

29日には、クノット・オランダ中銀総裁(ECB理事)が以下のように発言している。

①ユーロ圏共同債は加盟国の流動性問題・財政問題が他国に波及するのを防止する効果がある。共同債は持続可能な手段と考える。

②ただ、健全な国家財政を確立するための制度的枠組みの構築が必要だ。実施はその後の話だ

③危機は財政政策や銀行の脆弱性に起因するものだ。したがって金融政策が解決策にはなり得ない。

一見、シュタルクより当たりは柔らかいが、言っていることは同じだ。ECBといえども、理事はそれぞれの国の中銀代表であり、その国の金融界の代表であり、その地位を手放す気はありませんよと言っていることになる。

彼らは一つとして価値判断を行っていない。彼らの言い分は二つしかない。一つは共同債は手続き上で筋違いです、ということ。もう一つは中銀は政府ではなく、独立した機関だから、EUがどうなろうと責任を負う必要はないということである。

おそらくスティグリッツは(そしておそらくバローゾも)頭に血が上ったものと思われる。ただスティグリッツは捨て台詞がはけるが、バローゾにはそれは出来ない。


共同債はいいことづくめのようではあるが、一番肝心なところ、それが国際的に信任を受けられるかどうか、トリプルAが持続できるのか。できるとすればその保証は何か。 もう少し勉強が必要だ。