ハバナ憲章

第一条 (国際貿易の目的)

諸国間の平和・友好の関係のために必要な安定と福祉を創造するという国連の決意を理解し、

憲章制定委員会は通商と雇用の分野において互いに協調し国連と協力し、

国連憲章における全体目的を実現するために、

とくに憲章第55条に掲げられた生活水準の向上、完全雇用、そして経済・社会的発展と開発を目指すために。

国連を構成する諸国は国家として、国家の集団として誓う。国家の、そして以下の目標を獲得するべき国際間の行動を推進することを。

1.(民生)大きな、そして着実に成長する実収入と有効な需要を保障すること。生産、消費、商品交換を増やし、これによりバランスよく拡張する世界経済に貢献すること。

2.(開発)とくに依然として産業開発が初期段階にある国々において、産業と全体的経済開発を喚起し支援すること。そして生産的投資の国際的流れを強めること。

3.(平等)すべての国が平等に、経済的繁栄と発展をもたらすような市場へのアクセス、生産物と生産設備を持つ機会を与えられること。

4.(自由)相互の互恵関係を基礎におき、関税とそのほかの貿易障壁を削減し、国際交易における差別を撤廃する。

5.(開放)諸国が通商と経済開発のために機会を増し、それにより力を蓄えること。世界貿易を混乱させ、生産的雇用を減退させ、経済進歩を遅らせるような手段をとらないよう自制すること。

6.(協調)相互理解、合議、協力の発展を通して、国際交易にかかわる問題を解決するよう促進すること。とくに雇用、経済開発、通商政策、企業活動そして商業政策の分野での問題が重要である。

したがって国連はここにITOを創設する。そしてそれを通じて、国連はこの条文に掲げられた目的を実現し目標を推進しようとするものである。


前文に貿易の精神が書かれているが、国連憲章との直接の結びつきが強調されている。

六項目の目的規定では1~3項までが人権、福祉、開発の強調に当てられ、貿易はこれらに資するものであることが強調される。

4,5項の「貿易の自由」はそれらの実現を図るという目的で、いわば、その限りにおいて、重要な条件として位置づけられるという関係になっている。

そして6項めは、それがいかに正しいものであっても、強制を持って実施されてはならないということである。

GATTは、1から3を含んでいない。というより4項以下を実施するための枠組みとして作られた協定に過ぎないのである。

このことは二つの意味を含んでいる。

ひとつは1~3をネグレクトして運営することで、人間とか福祉とか開発とかいう哲学抜きのいわば商習慣の集成となってしまったことである。

一つは、それにもかかわらず、取り決め事項のそもそもの根拠は何かと尋ねられれば、国際法上の拠り所はハバナ憲章に求めざるを得ないということである。

この事情はWTOであろうと、その応用版であるFTAにせよTPPにせよ、変わるところはないはずだ。

問題は私たちがこの憲章を、その精神を議論の場で貫くかどうかということである。そしてITO憲章の実現を目指すという闘いの展望を持ち続けるかどうかということである。もちろん60年前の憲章をそのまま使うのには無理があるが、二度にわたる世界大戦の反省を踏まえた平和と友好の原則を生かすことは大事だと思う。