国際通貨金融制度の改革

ジョセフ・E・スティグリッツ(コロンビア大学教授)

*現状と問題点

クローバルな金融制度が機能していない。為替相場と金利の変動が激しい。とりわけ開発途上国がそのリスクを負わされている。

世界的な金融危機は「メードインアメリカ」である。米国が世界に輸出したもの。

規制緩和や資本市場の自由化が銀行や金融機関のカジノ化をもたらした。欠陥のある金融制度が危機を急速に世界に伝播させる役割を果たした。

*金融危機はなぜ起きたか

①「正しい規制」の排除

大恐慌後の40 年間、恐慌はなかった。その理由は大恐慌の教訓に学んだからである。

強力な金融規制が実施され、急速な成長をもたらした。

批判者たちは、規制は技術革新を押さえつけ経済成長の妨げになると主張する。

「これは全くバカげた主張です。正しい規制は経済を刺激し、安定と技術革新を促進するものなのです」

②金融部門のインセンティブの一人歩き

市場経済を機能させる中心的課題は、民間のインセンティブを社会的利益に合わせること。

しかし、金融部門のインセンティブと社会的利益の間には大きな格差があります。

金融部門のインセンティブの一人歩きは、過大なリスクテイクや近視眼的な行動をもたらした。

技術革新は、最大利益の獲得に向けられ、経済をうまく機能させるためのルールを弱体化させた。経済成長やリスク管理の高度化にプラスの効果があったものはほとんどない。

③過少投資(investment dearth)、もしくは過剰貯蓄(savings glut)

為替市場の高い変動性は結果として外貨準備の大幅増加を引き起こす。各国は、所得を支出することよりも貯蓄するほうに向かう。

各国は、十分な外貨準備がなければIMFの政策により経済主権を脅かされ、経済社会に悪影響を及ぼすことを学んだ。

その結果、貯蓄を貧困対策や地球温暖化問題に対処するために使用出来なかった。巨額の外貨準備は世界的な総需要を弱めた。

「節約のパラドックス」と呼ばれる現象が起きている。貯蓄マネーは米国の住宅バブルに入っていき、莫大な金額が浪費された。

貯蓄を本来すべきでない国が貯蓄し、浪費を本来すべきでない国が浪費している。

*世界経済が直面する当面重要な問題

①アメリカの過剰消費

世界的不均衡の一部はもちろん米国の過剰消費によるものであり、ドルが基軸通貨であることで促進された。

世界経済を支えてきたのは米国の旺盛な消費でした。その日は過ぎ去りました。二度とふたたび帰ってこないでしょう。

②他の諸国の過剰貯蓄

世界の総需要の弱さは黒字国の予防的な外貨準備積み上げがその主因となっている。

しかし、準備を積み上げればその国は守られるが、世界的には需要不足をもたらすという合併症を伴う。

ケインズは、黒字国が消費しないことが世界的な総需要不足の一因であると強調しました。不幸なことに、これは今後も長期にわたって直面する問題です。

*過剰貯蓄の理由

①投機資金からの防衛 準備を積み上げる最大の理由はグローバルな変動性に対抗するためである。

③輸出主導の成長路線も外貨準備積み上げをもたらす

③資源輸出国の慎重姿勢: 石油価格や天然資源価格の高騰で潤っている資源輸出国は、当然のこととしてまさかの時に備えて十分な貯蓄を持とうとする。最近の商品相場の乱高下はいっそうその姿勢を強めさせている。

④米国の家計貯蓄率も高まるだろう 

家計貯蓄率が高水準となり、政府の赤字削減が起こるにつれ、世界的な総需要が弱くなる。さらに、危機により「予備的準備」への需要が強まる。


*スティグリッツによる解決策の提案

①世界の金融規制制度の改革

当面絶望的。まずは国内規制を。

②世界の準備制度の改革

今後ドルに過度に依存した準備制度に戻っていくとは考えられないが、二つか三つの通貨による制度は、ドル基軸体制よりも一層不安定なものになる。

だからこそ世界的な準備制度を作ることが必要と考えるのです。

これ自体は古い考えであり、ケインズが約75 年前に述べました。おそらくその考えがようやく日の目を見るときがきたといえるでしょう。

③世界の需要を満たすための貯蓄の還流メカニズム

必要とされるのは、明らかにもっと多くの投資を行うことです。危機以前の世界の金融市場はこれに失敗し、資金は結局非生産的使用に回されてしまいました。

よりよい世界の金融制度を作るにあたっての課題はまさにこの問題に対処することなのです。

出所

ポストクライシスの国際通貨体制を考える
~基軸通貨の将来像とアジアの使命~

国際通貨研究所